No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
Cross Talk

ジャンルの固定化から逃れるために

畠中 ── ICCで展示するものは、同時代のテクノロジーを扱う作品ももちろんありますが、テクノロジーやメディアにあまりこだわらなくなってきたという面もあります。いずれにせよ、メディアアートがそれ自身を目的化したものではなくなってくるという気がしています。人によっては「これはメディアアートではないのではないか」と感じてしまうこともあるのかもしれません。

徳井 ── 先日、子ども向けのプログラミング教室に行ったのですが、そこに「メディアアートコース」というものがあって、「オリンピックの演出でも使われています」と説明されました(笑)。別にメディアアートは手法ではないのですけどね。

畠中 ── 目的化して勉強するようになって、そこから新しいことを生み出すことがなくなってしまったら、それは固定化してしまう。音楽もそうじゃないですか。最近ではジャズは新しいチャプターに入っているようですが、例えば、ロックなどは一般的なイメージとしては固定化してしまったようなところがある。

同じように今メディアアートと言った時、ある特定の作品やある傾向を持ったジャンルを意味してしまっているようなところがある。でも、これまでメディアアートというものは「例外」のようなものを取り込んできた分野だと言えるものでした。伝統的な芸術ジャンルに対し、その枠からどうしてもこぼれてしまうもの。デジタル技術によって新しい音楽の概念がもたらされたように、新しいテクノロジーが引き起こした例外がメディアアート作品だったはずです。

徳井 ── まだ海のものとも山のものともわからない、有象無象みたいなものをうまく射程に入れて話すために「メディアアート」という言葉があったのでしょうね。

「はみ出たもの」を体系化する

畠中 ── ジャンルの持つイメージの固定化が始まったところで、そのジャンルは大きなトレンドに回収されてきたように思います。その意味で、常にフロンティアを切り開いていくというメディアアートの役割は、これからも変わらないでしょう。

徳井 ── 個人的には「メディアアート」に変わる言葉をつくるような活動をしていけたらいいと思っています。人間とテクノロジーの関係を考えた時、少し前まではメディアに関するテクノロジーがある種のフロンティアでした。

今はどちらかというと、人間の知性だったり、感性だったり、人間そのものがフロンティアになっているのではないかと。あるいはAIがやっているようなことですよね。今までテクノロジーが踏み込めなかったところに、よりダイレクトに踏み込めるようになった。そこに新しい表現のフロンティアがあるのではないかと考えています。

畠中 ── これまでの美術史の中にも、そういう新たに切り開かれた場所がたくさんあったと思います。最初はアートとはみなされてこなかったけれど、後にアートとして認識され、ちゃんとした文脈の中に収められていくようになったもの。また、そうした新しいものが、アートの領域からさらに、社会においてアイデアの源泉になっていたりしますから。

これからのICCの役割は、そうした「はみ出たもの」をどう体系化するのかということになるのかもしれません。例えば、「テクノロジーがもたらした社会によって現れた、結果的に『はみ出てしまったもの』の伝統」とでも言うべき新しい表現が見えてくるような。

100年経ってから検証を行うのでは遅いので、今のうちからその活動を始めたいと考えています。

畠中 実氏と徳井 直生氏

Profile

畠中 実(はたなか みのる)

1968年生まれ。NTTインターコミュニケーション・センター [ICC] 主任学芸員。

多摩美術大学美術学部芸術学科卒業。1996年の開館準備よりICCに携わり、2000年「サウンド・アート」展、2007年「サイレント・ダイアローグ」展、2012年「[インターネット アート これから]——ポスト・インターネットのリアリティ」展など、多数の企画展を担当。

このほか、ダムタイプ、明和電機、ローリー・アンダーソン、八谷和彦、ライゾマティクス、磯崎 新、大友良英、ジョン・ウッド&ポール・ハリソンといった作家の個展を行なう。

http://www.ntticc.or.jp/

徳井直生(とくい なお)

1976年石川県生まれ。Qosmo 代表取締役、メディアアーティスト、DJ。

東京大学 工学系研究科 電子工学専攻 博士課程修了。工学博士。在学中からプログラミングを駆使した音楽・インスタレーション作品を発表するなど、活動は多岐にわたる。

ソニーコンピュータサイエンス研究所パリ客員研究員を経て、2009年にQosmoを設立。AIと人の共生による創造性の拡張の可能性を模索している。近作にAIを用いたブライアン・イーノのミュージックビデオの制作などがある。また、AI DJプロジェクトと題し、AIのDJと一曲ずつかけあうスタイルでのDJパフォーマンスを行う活動を続けている。

主な展示に、2011年「N Building」(「Talk to Me」展/ニューヨーク現代美術館)におけるコンセプト/プログラミング。2015年「Ghost in the Cell 細胞の中の幽霊」(金沢21世紀美術館)におけるサウンドデザインなど。

http://qosmo.jp/

Writer

神吉 弘邦(かんき ひろくに)

1974年生まれ。ライター/エディター。
日経BP社『日経パソコン』『日経ベストPC』編集部の後、同社のカルチャー誌『soltero』とメタローグ社の書評誌『recoreco』の創刊編集を担当。デザイン誌『AXIS』編集部を経て2010年よりフリー。広義のデザインをキーワードに、カルチャー誌、建築誌などの媒体で編集・執筆活動を行う。Twitterアカウントは、@h_kanki

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