No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載02 電脳設計者の天才的な設計
Series Report

複雑な制約条件が交錯するビルや都市も最適化

電脳設計者は建築業界でも大活躍するようになった。建築業界では、電脳設計者による設計のことを「コンピュテーショナルデザイン」または「アルゴリズムデザイン」と呼んでいる。早い時期からトポロジー最適化を駆使して、斬新なデザインの建築物を次々と設計して名を馳せたのが故ザハ・ハディド氏である。彼女は、新国立競技場の設計コンペで最優秀賞を獲得したことでも知られる(図4)。惜しくも予算オーバーによる計画見直しで廃案になってしまったが、その斬新なアーチ形屋根を持つ案は、今でも建築家の間で評価が高い。現在は、ハディド氏のようなコンピュテーショナルデザインを強みにした設計事務所が、世界中に開設されるようになった。

ザハ・ハディド氏がトポロジー最適化を駆使して設計した新国立競技場の一次案
[図4] ザハ・ハディド氏がトポロジー最適化を駆使して設計した新国立競技場の一次案
出典:日本スポーツ振興センター

建築物は、一般的な工業製品とは比べものにならないほど多様な制約条件を勘案しながら設計する。どのような部屋を何部屋作るのか、日当たりや風通しといった施主の要求の他に、土地の特徴や予算、周辺地域との調和や遵守すべき法令、工期などを考慮して最適解を探す。これが、いくつかの建築物をまとめた再開発プロジェクトとなると、人の流れやコミュニティー、交通量、災害時の敷地と建物の利用、植栽などの生育環境など、さらに多くの条件を盛り込んで、建物の形や配置を考えることになる。

建築物の設計では、建物全体の形状と建築プランをまず定め、そこから徐々に詳細な部位の形を決めていく方法を採ることが一般的だ。つまり、建物や部屋などの形をまず決め、その形が生み出す性能を評価しながら最終案を決めていく。これに対し、建築のコンピュテーショナルデザインでは、形は前提ではなく、最適化の結果である点が異なる。

例えば、施主の要望に応じて「1フロア当たり10部屋」「部屋同士の動線は何を優先するのか」といった制約条件を定め、部屋の形や配置、日当たりなど設計変数同士の関係性をルール化する。そして、これを最適化することで、3次元モデル化した設計の原型を作る。人間の建築家は、これを基に、CADやBIM*1のソフトを使って、素材や建材の品番、寸法など詳細な建築情報を加え、実際に建築が可能な状態にまで落とし込むのだ。環境解析、都市解析、構造解析、音響解析など、建築用の解析技術は劇的に進化している。複雑な要因を勘案して最適化できるコンピュテーショナルデザインを駆使すれば、周辺環境や地域コミュニティーなどと建築物がどのように関わっていくのか、論理的なストーリーを描きながら設計していくことができるようになる。

連載第1回では、工業製品の設計と生産において、3Dプリンターのような新しい生産技術を活用して、電脳設計者の活躍の場が広がっていることを紹介した。建築の分野でも同様の動きが出てきている。オランダのMX3D社は、3Dプリンターと同様の方法で金属材料を積み上げて自由な形の構造物を作ることができるロボットを使い、川に橋を架ける技術を開発中だ(図5)。川岸にロボットを置き、徐々に橋を作り進めて対岸まで橋を渡すという技術の確立を目指している。途中でクレーンを使って、資材をつり上げて供給するような作業は不要である。こうした工法は、トポロジー最適化によって、建設中の強度などを勘案した設計ができるからこそ可能になる。

金属材料をロボットで積層して骨格を作っている様子実際に橋を作っている様子のイメージ
[図5] ロボットで橋を架ける
(左)金属材料をロボットで積層して骨格を作っている様子、(右)実際に橋を作っている様子のイメージ。
出典:MX3D社のホームページ

[ 脚注 ]

*1
BIM(Building Information Modeling): コンピュータ上に作成した建築物の3次元モデルに、各部の建材の素材、調達先、品番、コスト、仕上げの方法、メンテナンスの履歴など、建築や管理上の様々な情報を集約したデータベースのこと。建築家による設計、施工業者、管理業者などが情報を一元管理できるようになるため、情報の一貫性の維持と情報管理の効率化を図ることができる。

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