No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載04 次世代UI(ユーザーインターフェース)
Series Report

スマホやデバイスをもっと賢く

これまで述べてきた便利なコンテキストアウェアネス機能だが、今後、より賢くなってくことが予想される。この場合にはソフトウェア開発者が重要な役割を果たす。

例えば、先ほどの地下街の追跡の場合、歩く歩数と向きだけではなく、1歩足を踏み出すごとの歩幅も考慮できるようになれば、さらに精度は増す。また、クルマへの応用もある。例えばGPS信号を受信できないトンネル内でも、クルマの軌跡を描くことができるようになるはずだ。先ほどの歩行者同様、クルマに取り付けた加速度センサやジャイロセンサから進行距離と方向を検出してクルマの位置を追跡する。

さらには、この機能をヘルスケアやフィットネスにも応用することもできる。例えば、スマホやセンサを搭載したでデバイスの利用者が、ジョギング中に歩幅が小さくなってきたら、スピードが落ち、疲れてきたと判断する。そして、「お水を飲みましょう」とか「大丈夫ですか?スピードが落ちています」といったアドバイスや声援をスマホやウェアラブル端末から発することも可能だ。あるいは、歩いていた利用者がいったん立ち止まり、急にスピードが上がったことを加速度センサで検出すると、スピードによって自転車に乗ったと認識することができる。そのようなときは「スピードの出しすぎに注意しましょう」というような言葉をかけるのだ。

利用者の行動パターンは、おそらく1日に数百回と変化するため、今後は、より多くの情報を学習するソフトウェアと、その学習結果を蓄えられるハードウェアが必要になってくるだろう。

低消費電力の実現が課題

コンテキストアウェアネス機能は、常時稼働している必要があり、そのためにこの機能を動かす半導体の消費電力を極力抑えていく必要がある。そこで、登場したのが、加速度センサやジャイロセンサなど、各種センサからの信号を専用で処理する「センサハブ」(図4)と呼ばれる超低消費電力半導体チップだ。コンテキストアウェアネス機能に使われる様々なセンサの信号処理を従来通りアプリケーションプロセッサで処理しようとすると、消費電力が跳ね上がり、ただでさえ短いスマホのバッテリー寿命が、さらに短くなってしまうからだ。

センサハブICの先駆けであるQuickLogicのセンサハブIC「ARCTIC LINK 3 S2」の図
[図2] センサハブICの先駆けであるQuickLogicのセンサハブIC「ARCTIC LINK 3 S2」。
Sensor Manager回路が様々なセンサからの信号を受け付け、Flexible Fusion Engineがセンサ信号の意味を理解し、整理する。Communication Managerはアプリケーションプロセッサにつなぐためのインターフェース回路、Programmable Fabricは独自のハードウェアを構成するための回路。
出典:QuickLogic

また、センサハブは、各種センサから集まる情報の"意味"を理解する機能をもつ。例えば、加速度センサやジャイロセンサからの情報が0になった場合、センサハブは、対象の人間が"動いていない"と理解する。加えて、腕や頭の微妙な動きを検出すれば、"椅子に座って読書をしている"と理解・推測する。もし10分間以上、動きを一切感知できなければ、"人が倒れた"と認識し、スマホから警報を鳴らすなど、周囲の人に気づいてもらうためのアウトプットにつなげる。センサが集める情報を、人間のアクションにつなげる上で、センサハブは、重要な役割を担っているのだ。

センサハブICは、様々なセンサからの信号を束ねる図
[図3] センサハブICは、様々なセンサからの信号を束ねる。
出典:QuickLogic

センサハブは、米Appleが2013年の「iPhone 5S」の発表時に独自のセンサハブチップ (Appleでは「モーション・プロセッサ」と呼ばれている)の搭載を公表して以来、広くその存在が知られるようになった。また、クルマ用半導体やセンサを開発している「ロバートボッシュ」は2月22日からスペインのバルセロナで開催されたMWC(モバイルワールドコングレス)において新たなセンサハブチップを発表した。日本で代表的なファブレス半導体メーカーの「メガチップス」、「ルネサスエレクトロニクス」なども開発を進めている。今後のコンテキストアウェアネス機能の進化と普及は、こういったセンサハブのテクノロジーの技術革新が鍵になってくるだろう。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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