No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview
 

──NTTドコモはいつごろから5Gの開発をやってこられたのですか。

2010年明けごろに検討を始めました。新たな世代は10年おきに到来します。LTE-Advancedも普及してきました。それを導入した頃からコンセプト作りを開始したのです。同じようなことを考えている企業は他にも、例えばエリクソンなどもやっていましたので、一緒に議論し始めました。また、それに伴い世界中で5Gの検討団体が発足し始めました。そのような機関や企業とも話をして、次第に盛り上がり、ここ数年、5Gが急速に 注目されるようになってきています。

例えば、日本でも総務省主導で「第5世代モバイル推進フォーラム」という研究団体を立ち上げています。その前身のARIB(電波産業会:アライブ)という団体でも、準備的に検討を行い白書も出しました。それには日本の各社も貢献して頂きました。国家プロジェクトでも協力して頂いています。NEC、富士通、パナソニック、三菱電機などと一緒にやっています。

IoT向け低消費電力通信も用意

──5Gの特長として、10Gbpsのデータレートと、1ms以下の遅延、さらに低消費電力という要求もあります。なぜ消費電力の削減が5Gで要求されるのでしょうか?

5Gの要求の中にIoT(インターネットにつながるモノ)関係もあります。IoTではいろいろなものに通信モジュールを置き、かつメンテナンスフリーにしなければならないという要求があります。メンテナンスフリーということは長寿命でなければなりません。電池の寿命を延ばすために消費電力を下げなければならないのです。

──それは5Gというくくりの中に入れるのですか?

これは5Gを待たずに既に進めています。今でもLTEを使って低速で低コストを目的とした規格を検討しています。NB-IoTという規格がそれです。できるだけ機能を落として、通信の帯域を狭く、価格を安く、できるだけ消費電力を下げるのです。NB-IoTだけではなく、IoT向けの規格は他にもいろいろ出ています。すでにLTEで議論されているものは、5G時代でもそのまま使っていこうと思っています。やはり5G導入当初は、高速・大容量を優先して5Gの開発を進め、IoT向けは既存のLTEの拡張で行こうと思っています。

5GはLTEと共存

──以前、5Gのイメージは、データレートを10Gbpsと非常に高速にするために、広い周波数帯域幅を利用できるミリ波*4のような比較的高い周波数帯を用いることが想定されており、そのために、既存のLTE基盤上に5Gを追加すると聞きましたが、実際はどうなのでしょうか。

はい、LTEが存続しており、その上で5Gの新たな無線セル(電波が届く範囲)を一緒に使う、というコンセプトです。完全に共存になります。遠い将来になると、LTEから5Gへ切り替わるかもしれませんが、当分の間は、共存することになります。

──NTTドコモの研究所ではいろいろな周波数について実験しています。これは周波数帯が決まったのですか、それとも実験で試しているのですか。

今は、あくまでも実験です。要素技術の検証をやっています。ただ、実験を開始してからだいぶ経ちますし、2020年の商用導入を考えると、そろそろ周波数を決める必要があります。年内にも決める必要があると思っています。これまで、周波数は最大100GHzまで検討してきました。2020年まで時間がまだあると思われますが、商用装置開発をする上で、早めに周波数を決める必要があります。

──周波数はどういう所で決めるのですか。

最終的に決めるのは総務省ですが、NTTドコモがこれまでやってきたことや、世界的な動向などについて考慮し、こちらから総務省に提案させて頂こうと考えています。

──LTEの周波数は各国で40を超える種類があります。

当初は、できるだけ少なめで始めたのですが、各国でどんどん増えてきました。それが問題なので5Gではできるだけ世界で統一する方向です。

[ 脚注 ]

*4
ミリ波: 波長が1~10mm、30~300GHzの周波数の電波。送信するデータの大容量化が可能であり、電波の直進性が高いが、降雨では電波の減衰が発生する。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.