No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview

最初から世界と手を組む

 

──世界の通信オペレータは5Gに取り組んでいると思いますか?世界的に盛り上がっているのでしょうか?

まちまちです。欧州の通信オペレータからは具体的な導入計画は発表されていないと思います。LTEがまだ立ち上がっていない面もあるせいか、5G導入への動きは遅いようです。一方で韓国や米国のオペレータは私たち同様、積極的にやっているようです。韓国は2018年に平昌冬季オリンピックを開催しますので、その際に5Gの大規模なトライアルをやるようです。ベライゾン(アメリカの大手通信オペレーター)は2017年に商用導入すると表明するなど、米国も積極的です。そのうち欧州も盛り上がってくると思います。

──日本はいかがですか。

他のオペレータはわかりませんが、総務省が2020年に実用化へ持っていくと仰っています。ソフトバンクやKDDIもエリクソンと共同で5Gを進めていくとアナウンスされていますので、これからもっと力が入っていくと思います。むしろ、わたしたちは足元をすくわれないように注意していきます。

──米国の通信オペレータのベライゾンやAT&TとNTTドコモが一緒に組むことはあるのでしょうか。

可能性はあると思います。MWC (モバイルワールドコングレス:世界最大の通信技術の見本市)2016が始まった2月22日に、ベライゾンと韓国KT、SK Telecom、NTTドコモが、「5G Open Trial Specification Alliance」を設立する方向で合意したことを発表しました。トライアルの調整などで協力するケースが出てきています。こういった組織を介してさらなる協力ができればいいなと思っています。

──こうやって世界の企業と協力し合っていけばガラパゴスと言われることもなくなります

それはもうないと思います。当社もLTEの頃から、3Gの失敗の経験を生かし、気を付けながら開発を進めるようにしてきました。協力しながら独自仕様的なモノは作らないようにしてきました。と同時に世界でリードする立場になってきましたので、5Gでは最初から世界と一緒にやりながら、しかも総務省とも一緒に提案しながらやっていきます。

 

オリンピックに間に合わせる

──オリンピックに向けてロードマップはありますか

明確にはまだ決まっていません。2020年に、できればオリンピック前に導入できるように検討し始めた、という段階ですね。できるだけコストをかけずにスムーズに導入できるようにすることが重要だと思います。

直近からトライアルを始めて技術的に実証していきます。並行してサービスやユースケースなどもいろいろ考えていきますが、世間のサービス関係のエキスパートにも頑張っていただきたいと思います。我々研究所の固い頭で考えてもうまくいきませんので、サービスの得意な方々に考えていただきたいのです。現在、そうしたアイデアを出せる方と一緒に進めて行っている所です。当社も何か出せれば良いと思います。

──どのような地域から5Gが普及していくのでしょうか

大容量・高速化へのニーズの高い場所からと考えると、やはり大都市部からでしょうね。それと2020年のオリンピックの年ですから、オリンピック関係の施設のある所にも良いアピールになればいいなと思います。

実際には、2020年から5Gを始めても端末が普及していないでしょうから、いろいろ課題はあります。最大限努力をしてやるしか、ないのかもしれません。早め早めに5Gへの準備が必要です。

OTT的サービスも充実へ

──今はOTT(Over-the-top:通信会社のネットワークを利用して通信を行うサービス、またはサービス業者のこと。Facebookやグーグル、アマゾンなどがこれに当たる)の企業が通信ネットワークを利用していますが、5Gになるとどうなるでしょうか。

いろいろな通信業者とそのことについて議論しています。ビジネスモデルなどを検討していますが、私たちもOTT的なサービスを既に行っています。このサービスも着実に伸びています。全てグーグルなどに持っていかれるのではなく、NTTドコモとしてもサービスを充実させていきます。例えば、dマガジンやdTVなど、複数の雑誌見放題やテレビコンテンツのサービスがあります。他に質の高い翻訳サービスも提供しています。

──5Gになるとビジネスも変わってきますね。

いろいろなプロジェクトができるので、その中心にわたしたちが位置してビジネスを進めていけたらと良いと思います。ただ、移動通信が増えていますので無線は必須となっています。これまで有線でつながっていた物とサービスを無線で行うなど、ビジネスは広がってきます。クルマでも自動運転や公道運転支援などに関して、LTEや5Gを利用する車両制御システムでデンソー様とコラボしていくことを最近、発表しました。出会いがしらの衝突や急な飛び出し事故など防ぐ技術や自動運転を実現していきます。

 

Profile

中村 武宏(なかむら たけひろ)

平成2年に日本電信電話(株)入社し、平成4年のドコモ発足時よりWCDMA、 LTE、LTE-Advanced、5Gの研究開発に取り組む。
平成26年より5G推進室長として、ドコモの5Gの研究開発を牽引している。
3GPPのTSG-RAN WG1副議長、TSG-RAN副議長・議長を歴任、国内ではARIB高度無線通信研究委員会 モバイル・パートナーシップ部会 部会長、2020 and Beyond AdHocリーダーを歴任し、モバイル通信方式の開発を先導し、標準化を推進した。現在、5Gモバイル推進フォーラム企画委員会委員長代理。
日本ITU協会・功労賞、電波産業会・電波功績賞、通信文化協会 前島密賞、文部科学大臣表彰受賞。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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