LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Topics
理論

インターネットの思想でエネルギーのネットワークを考える

最近になってメトカーフが提唱し始めた「エナーネット」は、イーサネットのように特定の技術を指しているわけではない。インターネットで得た知見をベースにして、これからのエネルギー網のあり方を考えていこうというのが、彼の主張だ。
2008年に行われた講演で、メトカーフは「過去62年間*4、インターネットを構築することで安価でクリーン*5な情報の需要に応えられるようになった。これからの62年間は、エナーネットを構築することで、安価でクリーンなエネルギーの需要を満たすだけではなく、それ以上を実現できるようになるだろう」と述べている。
では、インターネットは何が優れていたのか?
一つは、レイヤー化がうまくいったことだという。通信の世界ではよく「OSI参照モデル」*6という用語が持ち出されることがある。一番下に物理的な接続の方法を規定する「物理層」があり、その上には通信機器間での信号の受け渡しを定めた「データリンク層」、さらに通信経路を決める「ネットワーク層」、さらに「トランスポート層」、「セッション層」、「プレゼンテーション層」と来て、最上位には具体的な通信サービスを提供するための「アプリケーション層」が来る。各レイヤーの技術は、他のレイヤーを意識する必要はない。例えば、メールソフトの開発者は、ユーザーがインターネットにLAN経由で接続しているのか、Wi-Fiで接続しているのか、あるいはまったく別の方式で接続しているのか、気にする必要はない。各レイヤーは異なるスピードで技術革新を繰り返し、インターネットは急速に進化していった。

OSI参照モデル
[図表1] OSI参照モデル

もう一つは、分散化だ。コンピュータが登場した頃は、ごくわずかの大型コンピュータに端末がぶら下がる形だった。やがてパソコンが登場して処理の分散化が進んできた。分散化が進むにつれ規格も標準化され、ルーターを手がけるシスコや先述の3Comを始めとした多数のベンダーが参入し、競争が促進された。
こうしたインターネットにおけるレイヤー化、分散化の思想を取り入れたエネルギー網がエナーネットということになる。特定の事業者が独占する中央集権型のエネルギー網から、レイヤーごとにさまざまなプレイヤーが参加する分散型のエネルギー網への転換だ。
ここでいう分散型というのは、たんに発電所が複数に分散していることを指すのではない。エナーネットでは、個々の需要家も発電所となり、エネルギーを相互に融通し合う交換型を指向している。例えば、電力会社が太陽光発電所を各地に建設して各家庭やオフィス、工場などの需要家に電力を供給するのであれば、そのエネルギー網は分散型ではあるが、交換型ではない。需要家自身が発電設備や蓄電設備を備え、供給者としての役割を持つのが交換型ということになる。こうした環境が整えば、競争が促進され、投資も集まり、技術進歩も加速するというのが、メトカーフの主張である。

単なる分散ではなく、相互に交換が行われるネットワークのパターン。
[図表2] 単なる分散ではなく、相互に交換が行われるネットワークのパターン。
("ENERNET" Bob Metcalfeを基にテレスコープ編集部にて制作)

ITからのエネルギー分野に進出しようとしているメトカーフは冗談交じりにこう語っている。
「今のエネルギー産業に起業家精神を教えるより、シリコンバレーの起業家にエネルギーのことを教える方が簡単だ。」

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.