No.009 特集:日本の宇宙開発
連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕
Series Report

運ぶ人とモノに見合った数のドライバーが確保できない

次は少子高齢化に関する問題。日本をはじめとする先進国では、近い将来確実に高齢化社会へと進んでいく。そして、避けられない人の老化によって視野が狭くなった運転者の数が急増する(図4)。日本では、総人口に占める65歳以上の割合は、自動車の普及が始まる前の1950年には5%に過ぎなかった。これが、現在は25%を占めるまでになっている。

年齢別の年間交通事故死亡者数の図
[図4] 年齢別の年間交通事故死亡者数
出典:警察庁「平成26年中の交通死亡事故の特徴および道路交通法違反取締り状況について」より作成

高齢者が生活するためには、安全な移動手段の確保が欠かせない。気兼ねなく、思い通りに医療機関に行ったり、買い物に行ったりできる移動手段が必要なのだ。バスのような公共機関があれば、高齢者でも動けるのではと考える人がいるかもしれない。しかしこれからは、75歳を超え、バス停まで歩くこともままならない人が増えてくる。しかも、こうした高齢者をキメ細かくケアする若者の数は確実に減る。まず、衰えを補って安全に運転ができるドライバーを支援する機能が、そして最終的には完全自動運転車が必要になる。

少子化について、別の切り口から考えてみよう。世界の物流は、輸送効率を高めた鉄道や船舶による大規模集中型輸送の手段から、きめ細かく、柔軟な輸送が可能なクルマによる小規模分散型輸送へと進化してきた。ただしこの動きは、一人のドライバーが輸送できる積み荷の量が、減る方向に向かったとも言える。しかし今、少子化による働き手の減少が、問題になってきている。それにより、これまで使い勝手がよいとされた小規模分散型輸送が困難になってしまうのだ。

しかし、自動運転車ならば、この問題を解決し、人出の要らない小規模分散型輸送を実現することができる。例えば、Amazon社は、無人の小型飛行機ドローンを使った商品の配送を検討している。元々、運送業の企業から見れば、輸送原価に占める運転手の人件費の割合は大きく、本音では少しでも人件費を減らしたいと考えていた。Amazonの他にもクルマを使った物流分野でも、無人の自動運転車を求めるニーズは一気に高まるものと思われる。

信号や標識をなくすこともできる

最後に交通渋滞やこれに伴う経済損失に関する問題。燃料の約40%が駐車場を探している時や渋滞時など、エンジンの効率向上だけでは対処できないシーンで消費されているといわれている。国土交通省によると、日本国内だけでも、渋滞による経済損失は年間38億人・時間で、金額換算すると12兆円になるという。そこで浪費される燃料は、年間約4700万リットルにのぼる。

渋滞は、認知能力や運動能力の限界や走行環境の誤認など、主に人がクルマを動かしていることが原因で起きる。また、事故の発生によっても起きる。このため自動運転は、渋滞の解消に極めて効果的である。

特に、1台1台を安全かつ効率的に運用するだけではなく、社会の中で動いているクルマ全体の流れを最適化させるインフラとの連携や、車々間通信を使った編隊走行などを実現すれば、さらなる効率化を図ることができる。自動運転車が十分に普及すれば、もはや信号や標識、車線は不要になる可能性さえある。

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