No.009 特集:日本の宇宙開発
連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕
Series Report

自動運転車がついに合法化

シリコンバレーのIT業界の技術者は、自動運転車は技術的には比較的短期間で成熟できる、とみている。ただし、自動運転車を実用化するためには、技術以外の部分で超えなければならないハードルがたくさんある。ドライバーが運転することを前提に作られている各国の道路交通関連の法律、自動運転を認め産業として育成していく政策、自動運転車の実現を支え、それを利用したサービスなどを提供するサービス業者を交えたエコシステムの整備、そして利用者の認知などである。

2014年3月、自動運転車の実用化に向けて、画期的な出来事があった。これまで自動車は、1968年に決められた「自動車は運転者によって制御されなければならない」ことを明記したウイーン交通条約に沿って開発されてきた。つまり、世界的には自動運転は法的に認められていなかったのだ。しかし、これが、運転者が自動運転機能を無効化あるいは停止できることを条件に、条約が改正され、自動運転が合法化されたのである。この決定が、自動運転を実用化する潮流を作り出した。

段階的に自動運転車の普及に導く

自動車メーカー各社は、NHTSA(米高速道路交通安全局)などが定義した自動運転のレベル0~4の段階に対応して、徐々に自動化の度合いを高めていくシナリオを想定している (図5)。実用化する自動運転車の機能を少しずつ上げていくことで、法令の整備や、政策の策定と実施、エコシステムの整備、利用者の認知に十分な時間を割くことができる。

日本での自動運転の実現に向けたロードマップの図
[図5] 日本での自動運転の実現に向けたロードマップ
出典:内閣府SIP「自動走行システム研究開発計画」

レベル1の自動運転とは、既に実用化されている自動ブレーキなど高度運転支援システム(ADAS)のことである。システムは、ドライバーの安全な運転を支援することだけに徹する。

各国や地域では、ADASの普及を促すための制度が施行されている。欧州では、クルマに搭載する予防安全の機能に応じてポイントを加算し、それをもとに保険会社が保険料率を設定し、割引などを行う動きが拡大している。また、米国では、「KT法(Kids and Transportation Safety Act)」と呼ぶ法律が成立。4.5トン以下の新規登録車両へのリアビューカメラとモニターの搭載が義務化された。

レベル2の自動運転では、高速道路の走行や渋滞時など一定の条件下での自動運転を目指す。加速、操舵、制動といったクルマを操る基本的な作業のうち、複数を同時にシステムが担当する。ただし、ドライバーが行う作業が残っているため、ドライバーによる走行中の常時監視が前提であり、いつでも手動運転に切り替えることができる。現在日本の自動車メーカーの多くが実用化を目指しているのが、このレベル2である。各社は、システム制御の高精度化、高機能化に向けた技術開発、ドライバーがシステムの動きを監視しやすいHMI(Human Machine Interface)の開発などを進めている。

レベル4の実現を直接狙うGoogle社

レベル3の自動運転は、加速、操舵、制動の全てをシステムが担う。レベル2との最大の違いは、緊急時のみにドライバーが対応し、通常は走行中でも本を読んだり、映画を見たりしていてもよいことだ。旅客機の自動操縦は、クルマで言えばレベル3に当たる。欧州の自動車メーカーの多くが、2020年でのレベル3の実現を目指している。

レベル3では、システム機能が限界に達した時に、ドライバーに運転を権限譲渡する。そのタイミングや通知方法、さらに万が一事故が発生した場合の法的解釈などについて、検討する課題が残されている。

レベル4の自動運転では、加速、操舵、制動の全てをシステムが行い、ドライバーが全く関与しない。無人車につながる自動運転車である。Google社のGoogle Carには、ハンドルやペダルがない。同社は、段階を経ることなく、直接、最終段階と言えるレベル4の実現を目指している。

自動運転では、クルマとそれを取り巻くインフラのシステム構成を根本的に再構築する必要がある。次回は、自動運転システムの構成と、それを実現するために必要な業界構造の変化について紹介する。

Writer

伊藤 元昭

株式会社エンライト 代表。
富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

URL: http://www.enlight-inc.co.jp/

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.