No.009 特集:日本の宇宙開発
連載04 自動運転が拓くモータリゼーション第2幕
Series Report

第1回
視野に入った自動運転時代

 

  • 2015.08.31
  • 文/伊藤 元昭

自動運転車が、いよいよ現実のものになりつつある(図1)。既存の自動車メーカーのほとんどが、その実現に向けて技術開発に着手している。加えて、Google社などIT業界の企業も自動運転ビジネスへの参入を狙っている。自動運転は、単なるクルマの新機能ではない。モータリゼーション(自動車の大衆化)の第2幕を拓く。将来の人々の生活や社会活動の姿に合わせて、移動手段、運送手段としてのクルマのあり方を再定義したものが自動運転車なのだ。本連載では、第1回で自動運転が社会に与えるインパクト、第2回はシステム構成と業界構造の変化、第3回は実現に向けた技術開発動向について、それぞれ紹介する。

市場調査会社である米IHS社の自動車部門「IHS Automotive」は、自律走行機能を備える自動車、つまり自動運転車の市場予測を発表している。それによると、2035年には、新車販売台数のうちの約10%を自動運転車が占め、年間約1180万台が販売されるという。ちなみに、2030年時点でのハイブリッド車と電気自動車の販売台数は、1227万台と予想されている。自動運転車の普及が、いかに急速に進むと目されているかがわかる。2050年以降には、市場で利用される自動車のほとんどが、自動運転車に置き換わる可能性があるという。

自動運転車の実用化が目前に迫ってきたの図
[図1] 自動運転車の実用化が目前に迫ってきた
出典:Bosch社のプレスリリース

公道での実証実験が始まった

Audi社、BMW社、Daimler社、Tesla Motors社、トヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所(ホンダ)————。これらはすべて、自動運転車の開発に着手している自動車メーカーである。自動運転車への注力の度合い、技術開発のアプローチには多少の差がある。ただし、主要な自動車メーカーでの自動運転車の研究開発は、おしなべて試作車を公道で実証実験ができるレベルに達していると言える。

例えばAudi社は、2015年1月に開催された世界最大の家電製品の見本市「Consumer Electronics Show(CES)」の開催に合わせて、開発中の自動運転車でシリコンバレーから会場となったラスベガスまでの560マイル(約900km)の公道を自律走行してみせた。法令遵守のためドライバーを同乗させたものの、移動中の運転はすべて自動。最高速度70マイル/h(約113km/h)を出して、会場に到着した。

日本の自動車メーカー各社も、自動運転車の開発を急ピッチで進めている。日産自動車は、2020年までに複数の車種への自動運転機能の搭載を目指している(図2)。同社の電気自動車「リーフ」に高性能なセンサとコンピュータを搭載した実験車両を使った実証実験を開始しており、横浜市の同社の本社から横須賀市にある開発センターまで、一般道と首都高速を利用した自動運転に成功している。

日産では、2016年末までには、単一車線走行での渋滞への対応ができる、高速道路での自動運転を可能にする計画だ。2018年には、分岐や車線変更など複数車線での走行に対応させ、高速道路での完全自動運転の実現を目指す。そして2020年までに、市街地や交差点の進入なども可能にする目標を掲げている。

「リーフ」をベースにした自動運転の実証実験車両が備える主な機能の図
[図2] 「リーフ」をベースにした自動運転の実証実験車両が備える主な機能
出典:日産自動車のプレスリリース

トヨタ自動車は、2014年12月から自動運転車の公道実験を開始している。同社は、高速道路上での時速70マイル/h(約110 km/h)までの速度で、安全に車線・車間を維持しながら自律走行できる「AHDA(オートメイテッド・ハイウェイ・ドライビング・アシスト)」と呼ぶシステムを開発している。ホンダも、2014年9月に開催された「ITS世界会議」で、高速道路上での合流・分岐・車線変更などが可能な自動運転のデモを行った。

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