No.009 特集:日本の宇宙開発
連載01 スマホの未来と私たちの生活
Series Report

センサが今後も重要な要素

では、これからさらにどのようなセンサがスマホに加わるだろうか。加速度や回転、圧力、磁気、温度などこれまでの物理量を電気に変換するセンサに加えて、遅れている化学センサの開発が進むだろう。例えば、アルコールを信頼性高く検出する呼気アルコールセンサ、温泉街などの硫化水素を検出するH2Sセンサ、大気汚染を検出するセンサなどである。

これからのIoTやスマホに搭載される化学センサを製造するベンチャーとして、SPEC Sensors社(http://www.spec-sensors.com/)が2012年に米国カリフォルニア州のシリコンバレー近郊に設立された。同社が開発する製品は、一酸化炭素(CO)や、二酸化窒素(NO2)、オゾン(O3)、流化酸素(SO2)などの米EPA(環境保護局)が規制する汚染物質や、硫化水素(H2S)、呼気アルコールなどを検出するもの。回路基板にセンサや電池などを搭載しており、例えばNO2センサなら0~20ppmを検出する。NO2ガスが流れるとそれに比例した電流が流れ検出できる仕組みだが、その際の消費電力は少なく仮に10ppmのガスを検出しても80nW(ナノワット)しか消費しない。そのため、電池は10年間持つ実力があるという。

SPEC Sensors社の新型ガスセンサ 右は開発キットの図
[図4] SPEC Sensors社の新型ガスセンサ 右は開発キット
出典:SPEC Sensorsのホームページから

他にも、ベルギーの半導体研究所のIMECでは、電子ノーズと名付けた「におい」センサを研究開発している。IMECでは、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術で薄いメンブレン(高分子分離膜)を形成、そこにガスを吸着させ、その重量で検出するタイプのにおいセンサを開発した。

期待されるスマホの新機能

スマホには今後、どのような機能が求められるのだろうか。まず考えられるのは、テレビやBlu-rayレコーダーなどのリモコンである。テレビには1台ずつリモコンがあるため、1家に複数のテレビがあればリモコンも同じ数だけ必要になる。加えて、Blu-rayレコーダーやエアコンにも必要なため、下手をすると家中、リモコンだらけになりかねない。しかし、テレビやエアコンのリモコンの通信プロトコルが標準化できるようになれば、スマホ1台で家中のテレビやエアコンの動作を代用できるのだ。

スマートハウスでは、スマホで家中の電力量を見ることができる。各部屋の電力量を検出し、HEMS(ホームエネルギー管理システム)にデータを蓄積、処理し、スマートメーターへ送り、スマートメーターからクラウドへ送る。スマホは常にインターネットに接続されているため、これもアプリさえあれば、スマホで家の電力量を外出先からでも見ることができる。

スマートハウスの見える化端末としてスマホを利用し、消費電力を下げるの図
[図5] スマートハウスの見える化端末としてスマホを利用し、消費電力を下げる
出典:東京電力ホームページ http://www.tepco.co.jp/smartmeter/index-j.html

カーナビの地図データの更新にもスマホは使えそうだ。スマホは、クルマとBluetooth LEで接続できるため、スマホでアップグレードした地図データを、いつでもカーナビに送ることができる。さらに、クルマをWi-Fiに対応しておけば、より短い時間で地図データをダウンロードできる。カーナビの地図は、常に最新の地図データに塗り替えることができるようになるだろう。

さらに、クレジットカードの決済機にもなりうる。スマホには文字を入力するキーボードとコンピュータによる計算結果を表示するディスプレイが標準装備されている。これを利用して、NFC(Near field communication:近距離通信規格)のリーダー/ライター機能を付ければよいのだ。

NFCは、従来のICカードの機能の内、高周波(RF)回路とセキュリティ回路を切り離したものだ。RF回路は統一仕様とし、セキュリティ回路をクレジットカード会社などの決済機関ごとで認証できるようにすれば、機密を確保することができる。NFCのセキュリティ部分の規格を決め普及を促進するNFCフォーラムではクレジットカード会社や銀行も加わり、NFCのリーダー/ライター機能を追加できるよう仕組み作りが進められている。スマホがNFCのリーダー/ライターとして使えるようになれば、フリーマーケットでさえ決済手段としてクレジットカードが使えるようになるだろう。

以上、スマホ利用の展望を述べてきたが、ここであげたものに限らず、自動運転や医療・ヘルスケア分野での活用など、まだまだ多くの可能性がスマホには残されている。10数年前、携帯電話が社会に浸透し始めた頃、いまのスマホの爆発的な普及を想像することが出来なかったように、10年後には、ふたたび予想もしないスマホの発展・変革が起きているだろう。

[ 脚注 ]

*1
世界40ヵ国、主要OS・機種シェア状況【2015年6月】
https://www.auncon.co.jp/corporate/2015/0729.html
*2
http://www.tel.co.jp/museum/magazine/japanese_spacedev/150831_report01_01/index.html
*3
http://www.tel.co.jp/museum/magazine/material/150227_report04_01/
*4
"Cadence Digital, Custom/Analog and Signoff Tool Achieve TSMC Certification for 10nm FinFET Process"
http://www.cadence.com/cadence/newsroom/press_releases/Pages/pr.aspx?xml=091615_tsmc10nmFFcert&CMP=home

"TSMC Certifies Synopsys Design Tool for 10-nm FinFET Technology"
http://news.synopsys.com/2015-09-17-TSMC-Certifies-Synopsys-Design-Tools-for-10-nm-FinFET-Technology など。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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