No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
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半導体の進歩が可能にした次世代DNAシーケンサー

Oxfor Nanopore社が2012年2月に発表したDNAシーケンサー「MinION」も注目を集めている。MinIONは一見するとUSBメモリのようにも見える手のひらサイズのデバイスで、想定価格は約900ドル。デバイスにサンプルを入れて、パソコンのUSBポートに接続すれば、遺伝子解析が行える。ヒトゲノム解析を行うIon Protonシーケンサーとは異なり、MinIONはバクテリアやウイルス、あるいはガン細胞の生体組織検査など、比較的短い遺伝子を対象にしている。遺伝子の長さにもよるが、数分程度で解析が可能だという。

日本ではこれまでDNAシーケンサーの開発に遅れをとってきたが、大阪大学産業科学研究所の川合研究室などが現在研究を進めており、巻き返しを図ろうとしている。

こうした次世代DNAシーケンサーが次々と登場している背景には、半導体およびMEMS技術の進歩がある。従来のDNAシーケンサーでは、DNAの塩基(DNAの構成成分。DNAにはアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)という4種類の塩基が含まれる)に蛍光色素を結合させてレーザーを照射、これによって生じた光を検出するという方法を採る。そのため、試薬のコストもかかるし、装置も大きくなってしまう欠点があった。これに対して、現在開発が進められているDNAシーケンサーでは、大量の穴が空いたチップにサンプルを流し込んで、発生する電流や水素イオンをセンサーで読み取るという手法を採る。試薬は不要で、低価格な半導体を使え、さらに複数のDNAを同時に読み取ることが可能になるのだ。

これまでのオーダーメイド医療では、部分的な遺伝子の判定には安価なDNAチップ(DNAマイクロアレイともいう)が利用されてきた。これは、チップ上に配置されたDNAの断片にサンプルのDNAを入れて、結合した場所を蛍光色素や電流で検出するというもの。しかし、ゲノム解析を行うDNAシーケンサーが急速に低価格化しており、医療用途ではDNAチップからシーケンサーに主流が移っていく可能性が予期される。

DNAシーケンサー「MinION」の写真
[写真] デバイスにサンプルを入れて、USBで直接パソコンに繋げられるDNAシーケンサー「MinION」

photo credit :Oxfor Nanopore

患者に応じた薬を、3Dプリンターで印刷する

オーダーメイド医療というと遺伝子解析を医療に活用することを指すケースが多いが、それ以外にも医療のオーダーメイド化は着々と進行している。

ユニークな例の1つが、薬の「印刷」だ。グラスゴー大学のLee Cronin博士らは、3Dプリンターを使って薬を作る研究を進めている。

通常、薬を作るには、成分をガラス器具の中で混ぜ合わせ、化学反応が起こるようにする。研究チームはこのプロセスを3Dプリンターで再現しようとしている。一番後に反応を起こす成分を、最初に3Dプリンターで出力し、その上に他の成分の層を重ねていく。そして最後に液体成分を出力すると、一番上の層で化学反応が起こって新しい分子が作られ、その生成された分子が下の層に行って……というように次々と化学反応が起こり、最終的に薬ができるという。

現在進められている研究では、化学反応が起こる領域を正確に区切るために浴室用のシーリング材を成分として用いており、そのまま服用できる薬にはならない。しかし、研究の次の段階では服用可能な成分を使い、薬局で販売されている薬の再現を目指す。

研究チームは、この技術は今後5年以内に製薬会社で利用されるようになり、20年以内に一般の人も利用できるようになると予想している。

この研究が成功すれば、医師や患者はあらかじめ用意された調合データや、オーダーメイドの調合データをダウンロードして薬を作れるようになるだろう。それによって、平均的な患者を対象にした大量生産の薬ではなく、病状や体質に応じて成分を調整した薬を入手できるようになるかもしれない。

グラスゴー大学のLee Cronin博士らが開発中の、3Dプリンターを使った化学反応の連鎖による創薬の写真
[写真] グラスゴー大学のLee Cronin博士らが開発中の、3Dプリンターを使った化学反応の連鎖による創薬。

photo credit :University of Glasgow

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