No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

空域ベースの航空管制から、四次元の航空管制へ

──首都圏の空港容量を拡大するための対応策の1つが、先生が研究されている航空管制なのですね。滑走路を増設するといった、ハードウェア面だけでなく、ソフトウェア的な運用によって空港容量を拡大すると。

従来の航空管制では、空域を分割し、レーダーなどによって飛行機の現在位置を把握し、管制官が指示を出します。管制官が出す指示は、速度、角度、高度の3つだけ。パイロットは、管制官の指示にしたがって飛行機の針路を変えたら、次の指示があるまでそれを維持します。また、管制官が担当する空域は地域によって分けられており、札幌、東京、福岡、那覇をそれぞれ担当する各管制官が、各空域の高さ方向も含めて全部見ています。基本的に管制官は、担当する空域に入った飛行機だけを見ており、そこから出た飛行機は、ハンドオフといって次の空域の担当に任せるようになっています。

例えば、福岡空港発の飛行機は、福岡空港の管制塔の指示を受けて離陸し、その後レーダーによる管制に移ります。このような空港を中心に管制が行われている区間をターミナルと呼びます。その後,飛行機の高度があがると共に、エンルート(enroute)という管制区間に移ります。そして,羽田空港が近づいてくると、今度は羽田空港の"ターミナル"区間に入って、管制官の指示を受けることになります。

今後は、通信やGPSなどの技術革新を更に進め、トラジェクトリー(trajectory)、つまり軌道ベースで飛行機を運用しようという考え方に変わっていきます。飛行機の出発地から目的地までを1つの空域としてとらえ、軌道を一元的に最適化しようという考え方です。そのためには、飛行機の現在位置と将来位置を、空間と時間ともに正確に把握し続ける技術が必要になります。三次元の位置情報に時間も加えた、いわば四次元の航空管制といえるでしょう。

ICAO(国際民間航空機関)は、2025年を目指した航空管制システムに関する指針を策定しました。ICAOの指針に基づき、アメリカではNextGen、ヨーロッパではSESARという長期ビジョンの検討委員会が立ち上がりました。日本でも、「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン」、CARATSとして2010年から推進協議会が立ち上がり、私が座長を務めています。技術を開発して商品やサービスを開発しても、それを利用できなければ意味がありませんから、CARATSは産学官連携で進められています。

CARATSでは長期的なビジョンを達成するために、「安全性を5倍」、「管制処理容量を2倍」、「サービスレベルを10%向上」、「燃料消費量を10%削減」、「効率性を50%以上向上」「CO₂排出量を10%削減」という6つの数値目標が設定されています。

空港近くに生まれるボトルネックを解消する

──空港容量を増やす上でのポイントはどのようなものでしょうか?

飛行機が行き交いして混雑する空港の場合、空港の近くの空域にボトルネックが生まれます。着陸できる頻度というのは、地下鉄とさほど変わらず、2分に1回くらいです。無理に間隔を詰めようとしても、滑走路上に飛行機がいる場合は着陸できなくて、Go-around(着陸復行)で周囲を旋回しなければなりませんから、空港容量が下がってしまいます。そういうことも考慮した上で、現在は2分に1回が目安になっています。

空港容量を上げるためには、無駄なGo-aroundを極力排除して、次々と飛行機を着陸させる必要があります。そのためには、空港のギリギリ手前の空中で待たせておくのが一番効率がよいのです。待たされる側にしてみれば、たまったものではありませんが。

以前から世界各地の空港では、飛行機を空中で待たせておくためにさまざまな手法が採られてきました。

有名なのは、ロンドンの中心部にあるヒースロー空港でしょう。ヒースロー空港の上空には高度の違う待機場所、ホールディングスペースが4箇所ほど設けられています。ヒースロー空港では、このホールディングスペースに入るのが必須となっており、着陸の許可が出るまでぐるぐる回ることになっています。

日本の羽田や成田にもいちおうホールディングスペースはあるのですが、ほとんど使われてきませんでした。私はホールディングスペースを積極的に使った方がよいと思いましたが、日本の航空界には、空中で待機させない方が旅客にとってもよいサービスだという考え方が強いようです。

離着陸のタイミングを調整するホールディング方法としては、フランクフルトやロサンゼルスで行われているように、直線上に飛行機を行き来させる方法もあります。飛行機は一旦空港を通り越して反対側に飛んでいき、管制指示が出た時点で反転して着陸経路に乗る方法です。

日本では、ベクタリングという方法が広く行われています。これは、目的地に一直線で向かうのではなく、フィックスという途中のポイントに対しても寄り道させてタイミングを調整する方法です。要は、飛行機の針路をずらすわけですが、あらかじめフィックスを何カ所か用意しておくことで、管制指示が行いやすくなります。

CARATSで提言し導入が決まっている施策としてはダイナミックフィックスがあります。空港の運用状況に合わせて、フィックス自体を柔軟に移動する方法です。このような取り組みで、容量を増やし、レーダー誘導業務の負荷を減らし、飛行経路を短縮して燃料を節約させることが出来ればよいと思います。

離着陸回数を増やすということでは、飛行機の後ろに発生する後方乱気流への対応も必要です。大型機の後ろには大きな乱気流が発生するため、これに続けて小型機を着陸させるのは危険です。「大型→小型→大型→小型」という順番で着陸させようとすると、大型機のあとにインターバルを長くとる必要がありますから、効率が悪くなります。そこで、「大型→大型→小型→小型」の順番にすれば、効率が上がります。CARATSでは、後方乱気流の区分を細分化し、さらに気象状況に応じて動的に着陸する順番の設定を行うことで、離着陸間隔を短縮する施策を提言しており、これは今後導入されることになっています。

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