No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

すべての飛行機が自律的に航行する、未来の航空管制

──それにしても、大量に行き交う飛行機に指示を出す、管制官の仕事は大変そうです。

日本の航空管制は、諸外国に比べて人の問題が大きいのです。

例えば、管制指示の間違いでニアミス事故が起こったとしましょう。衝突しなかったとしても、急上昇して乗客がケガをするといったトラブルは発生する可能性があります。

この時、日本の法律では、管制官個人が訴えられ責任を負わなければならない事態も発生します。実際、管制官が裁判で負けた事例があります。

──そうなのですか。

アメリカなどでは、このような場合、事故等の原因究明と今後の改善のために、個人の責任は出来るだけ問わないようになっています。裁判で個人が責任を負うとなると、自分に不利な情報は隠してしまいます。責任を問わない代わりに全部話してもらい、システムの改善につなげようという発想です。

ドイツなどは管制業務を民営化して手厚い報酬を払うようにしているようですが、日本の管制官は公務員ですから。空港容量を増やすためだといって、管制官の負担だけを増やすのは無理があります。

CARATSでは、技術の力によって管制官が判断を問われる場面を減らし、それによってヒューマンエラーをなくすことをも目指しています。

──管制区域については、どうなっていくのでしょう?

世界的な潮流としては、管制するエリアを広げる方向に向かってきました。

例えば、アメリカのニューヨークでは、ニューヨークの北からフィラデルフィアまでを1つのエリアとして管制を行うようになりました。

また、GPSや衛星通信などの精度が高くなってきたことで、同じ空域でも航空路を高さ方向に増やしていけるようになってきました。同じ空域に何車線ものハイウェイが通っているイメージです。

──技術の進歩によって、航空管制は将来的にどう進歩していきますか?

航空管制の技術の進歩としては、たとえば、GBAS(Ground Based Augmentation System:地上型衛星補強システム)を挙げられます。GBASは、GPS衛星からの信号を空港近辺に設置した複数の受信機で受信し、補正情報を飛行機に送信することで、飛行機が正確な現在位置を把握できるようにするシステムです。空港周辺を飛んでいる全部の飛行機がどう動いているかを管制官が把握し、なおかつ管制指示にきちんと活かせるようになってきたのは、最近のことです。

現在導入が進められているGBASは、カテゴリーIというもので、滑走路視距離(滑走路上の操縦士が見通すことができる距離)が550メートルの着陸に対応しています。

開発研究が行われているカテゴリーIIIのGBASになると、ほとんど視界が見えていない状態でもきちんと着陸できます。また、滑走路への曲線進入(曲線を描く複雑な進入ルート)も可能になるでしょう。

CARATSが目指している未来の航空管制では、1つ1つの飛行機に対して「どの地点に何時何分」という指示が出され、それぞれが自律的に飛行することになります。想定したケースと異なる場所に飛行機が存在した時にはじめて、そこで管制官が指示を出す、そういう方向性を目指しています。

後方乱気流の問題は最後まで残るでしょうが、これも管制技術が進歩すればさらにうまくコントロールできると思います。例えば、2機の飛行機が続けて着陸しようとしている場合、前方の飛行機の後方乱気流の影響を受けないよう、後方の飛行機は少し高いところを飛ぶように指示。そして、同じ滑走路上の違う場所に着陸させるということ等は既に実験され実用可能な段階です。

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