No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

羽田空港の容量を向上させる切り札は、市街地上空飛行

──羽田空港に関して、空港容量を向上させる方策としてはどのようなものがありますか?

短期的に実現可能とはいえませんが、市街地上空飛行でしょうね。最近になって、国交省が市街地上空飛行の検討を表明するようになってきました。

実をいうと、市街地上空飛行自体は珍しいことではありません。海外に出かけるとわかりますが、多くの場合、住宅地の上を飛行機が飛んでいます。日本でも、福岡を始めとして市街地上空飛行はごく普通に行われています。

しかし、羽田空港の場合は、騒音を避けるために沖合へ展開してきた経緯がありますから、該当地域の住民に改めて騒音を我慢してくれといいづらい背景があります。恐らく、羽田空港の建設時には、東京がここまで拡大して、世界の中で大きな役割を果たすようになるとは誰も思っていなかったのでしょう。しかし、世界都市としての責任を今後も果たすのであれば、やはり離着陸回数を増やせるようにすべきだと思います。

市街地上空飛行で影響を受けることになるのは、空港の対岸にあって再開発が進んでいる地区やその近傍などです。もちろん、24時間の離着陸はできませんが、夕方の3〜4時間だけでも市街地上空を飛行できれば、年間で何万回かは離着陸回数を増やすことができます。

また、騒音のイメージの強い飛行機ですが、近年は低騒音化が進んでいます。実際の騒音としては近くの自動車の方がうるさいのですが、どうしても気に入らなくて我慢できない人もいるでしょう。

市街地上空飛行についての合意形成は容易なことではありませんが、東京に住むにはそういう面も必要だと理解してもらえるよう、国民的な議論を重ねていくべきだと考えています。

Profile

屋井 鉄雄(やい てつお)

東京工業大学大学院総合理工学研究科教授。
東京工業大学土木工学科卒業、1985年博士後期課程修了(工学博士)
京都大学工学部助手、東京工業大学工学部助手、助教授を経て、1997年に同大学工学部教授、2003年より現職。この間、マサチューセッツ工科大学客員準教授、ヘルシンキ工科大学客員教授、フィリピン大学客員教授。現在、アジア交通学会事務局長、航空政策研究会理事、全国地域航空システム推進協議会専門委員、国土交通省交通政策審議会委員。

Writer

山路 達也(やまじ たつや)

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『Googleの72時間』(共著)、『新しい超電導入門』、『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは、@Tats_y

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