No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

世界に誇る空港を実現するカギは、
航空管制システム

2014.09.12

屋井 鉄雄 (東京工業大学大学院総合理工学研究科 人間環境システム専攻教授)

首都圏の空港をめぐる議論が激しくなっている。東京が世界都市になるには、羽田空港、成田空港の離着陸回数を増やす必要があるが、滑走路の増設は難しい。
だが、航空管制を効率化することができれば、より多くの飛行機をさばけるようになる。公共交通システムを長年研究し、「将来の航空交通システムに関する長期ビジョン」推進協議会、CARATSの座長を務める東京工業大学 屋井鉄雄教授に、将来の航空管制システムについて話をうかがった。

(インタビュー・文/山路 達也 写真/AXHUM)

いかにして、日本の空を強化するか?

──羽田空港を中心に、日本の空の輸送能力をもっと高めるべきだという声が強くなっています。

1952年に羽田空港はアメリカから日本に返還されましたが、近年の増え続ける航空需要に応えるためには沖合を埋め立てるしかなく、拡張性に限界が来ていました。また、千葉の成田空港は、当初から建設反対運動などの大きな問題をはらんでいました。首都圏には3000万人が住んでおり、外国へは飛行機で行くしかないわけですから、輸送能力が不足することは明白です。

そこで2000年9月に、首都圏第3空港調査検討会が立ち上げられ、首都圏に第3の空港を設置することが検討されました。検討の結果、新空港の建設には時間がかかるため急激な需要増に間に合わないと判断され、羽田空港に4本目のD滑走路が建設されることになったのです(D滑走路は2010年10月に完成)。

第3空港に関する当初の議論では、滑走路を始めとした地上施設を増やしていけば、飛行機の離着陸回数を増やすことができ、需要増に対応できると考えられていました。ところが議論を進めていくうち、航空管制側からは、羽田空港の近くに新空港を作っても離着陸回数は増えないという反論が出てきました。

滑走路と航空管制システムは、それぞれまったく分野が異なり、専門家同士でも事情がまったくわかりません。社会の問題にはさまざまな分野の研究者が学際的に協力し合って解き明かしていかなければならない分野があり、今回の航空分野がまさにそれにあたります。空港や航空旅客を研究していた私が、航空管制の分野に取り組み始めたのは、ちょうどこの頃からです。

2010年10月の首都圏空港の年間離着陸回数は羽田30.3万回、成田22万回の計52.3万回。2014年度中には、羽田が44.7万回、成田30万回で、計74.7万回になります。74.7万回というのは、素晴らしい成果ではありますが、まったく十分ではありません。

ニューヨーク都市圏の離着陸回数は多い時で150万回、ロンドンも4空港で100万回に上ります。私は、将来的な首都圏の航空需要に対応するには100万回規模のキャパシティが必要だと考えています。

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