No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

モビリティの未来

──そうした中で、モビリティはどのようなものになるのでしょうか。

ふたつの側面を強調しておきたいと思います。ひとつは、リアルタイムのデータの有用性です。交通渋滞を把握して別の道を走ろうかとか、どの交通手段をとろうかという判断がシームレスにできることなど、その利点は大きい。もうひとつは、自律走行テクノロジーがもたらす大きな変化です。

──自律走行車は、ますます現実味を帯びてきていますね。

現在の自動車は、すでに車輪に載ったコンピューターとも言えます。しかし、その後の自律走行車がもたらす影響は計り知れない。それは、移動中はハンドルを握らずに、本を読んだり昼寝をしたり、テキストメッセージを送信したりできるというぜいたくさだけを指すのではありません。それが走る風景やシステムがもっと面白いのです。

──都市スケールの視点で見ればということでしょうか。

そうです。自律走行車は大きなエコシステムの中で機能し、そこではパブリックとプライベートな交通の境界が溶けてしまうでしょう。たとえば、朝勤務先までわれわれを届けてくれた車は、駐車場で無駄に待ちぼうけをしたりせず、他の家族や近所の人、ソーシャル・メディアでつながっている誰かを目的地に送り届けるようになってくる。あるいは、その車は地元政府に雇われて働くかもしれません。

──車はもっと有効に利用されるということですね。

未来のモビリティを研究するMITのSMARTチームの論文によると、シンガポールのような国では、現行の自動車の数の30%ほどでモビリティの需要は満たせるそうです。それだけでなく、もし同方向へ向かう人々が車をシェアすれば、さらに40%がカットできる。これは、ニューヨークのタクシーを、人々がシェアして利用するようになったらどうなるかを分析した結果です。つまり、人々がオンデマンドで移動するようになれば、現在路上に走っている5台の車のうち4台は不要になるということです。ちなみに、シンガポールは、世界でももっとも早く自律走行車を大量に導入する国となるでしょう。

[映像] HubCab

──車の数が減るとは、予想ができませんでした。

そうした車の効率的運用は早くも2015年にはスタートし、長期的に見ればモビリティ・インフラストラクチャーのコストや、それを保持するためのエネルギー消費をカットします。また未来の自律走行車は、道路走行の最適化から交差点管理にいたるまでさらなるイノベーションも引き起こすはずです。その結果、目的地に到着するまでの時間が短縮され、渋滞も環境への負荷も減る。リアルタイムのデータ・プラニングやスマート・ラウティング(迂回)はもう現実のことになっていますね。そうしたことがさらに発展し、大きなシステム・ダイナミクスの点から見て、一貫したインテリジェントな交通ネットワークになるはずです。「スマート交差点」はそのひとつの例で、アルゴリズムによって交通量を調整する。道路には信号がなくなり、まるで魔法のように両方向の各車線を走る車が、衝突することなく交差点を通り抜けていく。つまり、モビリティのさまざまな課題は、アスファルトではなく、シリコンの力によって解決可能だということです。

──夢のような未来像ですね。

[映像] スマート交差点

とは言っても、こうしたことが広く受け入れられるまでに、まだ障害がいろいろ存在しています。そして、未来の道路が現在のものより安全であるのを保障するために、リダンダンシー(冗長性、余裕・余地)を盛り込まなくてはなりません。あるところで不都合が起こっても、他の部分がそれを補完するといったような働きが必要なのです。また、数は減るでしょうが、交通事故はなくならない。従って、自律走行車が走る未来のモビリティ時代においては、保険や法的責任の所在について再定義が必要になります。そして、デジタル・セキュリティ問題もある。コンピューター・ウィルスはおなじみですが、自律走行車も同じようにウィルスによってクラッシュしてしまうのか。火急の課題であるのにも関わらず、これらの回答を見いだすのは簡単ではありません。

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