No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

ライフスタイルはどう変わるか?

──先ほど、シンガポールが自律走行車を大量に導入する最初の国になるとおっしゃいましたが、それはなぜでしょうか。制度上の利点があるのでしょうか。

センサブル・シティラボがシンガポールに研究室を設けていることも理由ですが、シンガポールという国の独自性もあります。あそこは一都市が国であり、島でコンパクトである。そんな性質から、モビリティに関するテストベッドになりやすいのです。またシンガポール政府はモビリティの実験に深い関心を持っていて、都市の中心部が混み合っている際には通行料を高くする「ロード・プライシング」を最初に試したのも、同国でした。

──ところで、ユビキタス・コンピューティング時代になると、いつでもどこでも仕事や生活ができる。そうなると会社にもミーティングにも出かけなくてもよさそうなものですが、それでもモビリティが重要なものになるのでしょうか。

あなたは、今日ここに私に会いに来て下さいましたね。やはり実際に人に会いたいと思うものです。自宅のキッチンを眺めてばかりいるのも退屈なものです。それよりも、われわれは外に出て人に会いにいく。そのためにモビリティはなくてはならないのです。

──現在、大量の乗客を運ぶ電車やバスのような公共交通手段は、いずれ先細っていくのでしょうか。

いいえ。いろいろなモビリティのモードが共存する時代になるはずです。というのも、リアルタイムでデータをモニターできるため、乗り換えが無駄なくシームレスになる。現在のバスの運行もそうでしょう。次のバスがいつ来るのかがわからないとイライラしますが、バス停に「あと何分で到着」と表示されるようになっただけで、もっと多くの人がバスに乗るようになった。将来は、そうした情報がスマートフォンでもわかったりして、複合化されていく。飛行機、電車、バス、電車などの間の移行がどんどん簡単になるのです。

──先ほどのスマート交差点を通過する車のように、人もスムーズにシームレスに移動できるということですね。

面白いのは、その一方で人力のモビリティも増えることです。人力とは、自転車に乗るとか歩くとかいったこと。自分の歩数やカロリー消費を刻々とモニターする「クォンティファイド・セルフ」の意識が高くなっていますから、自分の身体を動かしながら、風景を眺めたり飛んでいる鳥を見たりして、健康的に生きようとしているはずです。

──現代では、宇宙探査も商業化されて企業が請け負うようになりました。スマート・シティをつくるのは、これまでのような政府なのでしょうか、それともプライベート・セクターなのでしょうか。

それは非常に重要なポイントです。最終的には、政府が得意なところならば政府が担い、企業が得意な分野ならばプライベート・セクターが行うべきでしょう。ただ、企業が優れた実力を発揮するのは、そこに競争があればこそ、です。たとえば道路建設を企業に任せてしまうと、競争は起こらない。その道路は寡占状態になって、最高の成果を得られないというリスクがあります。そうしたケースは、政府が担うのが望ましいでしょう。

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