No.007 ”進化するモビリティ”
Scientist Interview

センサブル・シティを設計する
−ユビキタス時代のモビリティ−

2014.10.14

カルロ・ラッティ (建築家・都市エンジニア MITセンサブル・シティラボ ディレクター)

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究所であるセンサブル・シティラボでは、都市全体がインターネットに接続されるようになった未来に、どんな社会や生活が訪れるのかを予感させてくれるようなプロジェクトを進めている。プロジェクトは、ゴミの追跡から、ニューヨークのタクシーの走行軌跡調査、ドローン(自律航空機)による道案内システム、未来のモビリティまで多様で、幅広く世界の変貌が感じられる。ディレクターの建築家・土木エンジニア、カルロ・ラッティにモビリティと都市の未来を伺った。

(インタビュー・文/瀧口 範子 写真/Marilyn Humphries)

センサブル・シティとは何か?

──センサブル・シティのアイデアが意味あるかたちで実現し、またそれをどんどん広げていくためには、まずはどんなテクノロジーが確保される必要があるのでしょうか。

これだ、という単一のテクノロジーはありません。都市のスマート化は、デジタルとフィジカル(物理的なもの)、ビットとアトム(電子信号と物質)が混ざり合うところで起こりつつあります。今日の都市空間は急速に変化していますが、それはデジタル・テクノロジーと広範な通信ネットワークが物理的な空間に刻々と融合されているからです。「ユビキタス・コンピューティング」は、世界のコンピューター化の第3の波とされますが、それが今現実に起ころうとしているのです。

──「ユビキタス・コンピューティング」は、いつでもどこでもコンピューターにつながっているという意味で、故マーク・ワイザーによる造語ですね。

ゼロックスの有名な研究所PARCのパイオニアであったワイザーは、第1の波は、多数の人々がマシーンを共有したメインフレーム時代、そして第2の波はパーソナル・コンピューティングの時代としました。パーソナル・コンピューティング時代では、机の上でコンピューターと人がにらみ合ってきたのですが、考えてみるとこれも居心地の悪いものです。第3の波であるユビキタス・コンピューティング、あるいは「静かなテクノロジーの時代」とも呼ばれる、来るべき時代に、テクノロジーはわれわれの生活の背後に控えているものになる。そして、ユビキタス・コンピューティングの当然の帰結となる「インターネット・オブ・エブリシング」とも相まって、都市はこれまでになかった新たな環境に変貌するのです。それがスマート・シティです。

──スマート・シティ構想には、さまざまなアプローチがあります。公共交通がデータで把握されて運行が効率的になったり、個々の車も走行距離や燃費、そして交通渋滞などがすぐにドライバーにフィードバックされるようになったりする。

スマート・シティは、住人や環境の状態に適切に反応し、効率的でサステイナブルな住みやすいエコシステムになると言われています。現在、都市スケールで起こっているのは、20年前にフォーミュラ・ワンのレーシングカーに起こったことと似ています。20年前までは、レースの勝負は整備工やドライバーの資質に左右されるところが大きかった。ところが、テレメトリー(遠隔測定法)のテクノロジーが花開いたことにより、レースカーはそこで何千ものセンサーが働き続けるコンピューターとなったのです。インテリジェント化した結果、レースの状況にリアルタイムで反応することが可能になった。これと同じく、過去10年ほどの間、デジタル・テクノロジーが都市を覆うようになり、それが大規模なバックボーンのインフラを形成するようになりました。ファイバーのブロードバンド回線やワイヤレス通信コミュニケーションのグリッドがモバイル機器をサポートし、機器自体も手頃な値段になっている。同時に、特に政府が開放しているオープン・データベースに人々がアクセスし、またそこにデータを加えることで、無数の情報が明らかになっています。公共の場に置かれた情報キオスクやディスプレイがあるおかげで、テクノロジーに強くない人々もそうした情報に触れられるようになっている。こうした基礎に、センサーやデジタル・テクノロジーのネットワークを加えると、もうわれわれの都市環境は急速に「野外コンピューター」に変貌を遂げていることがわかります。

──そうすると、何か特定の基本となるインフラストラクチャーが構築されるわけではなくて、こまごまとしたテクノロジーをつなぎ合わせてそうした野外のコンピューターが成立するということですね。

これから出てくるテクノロジーは、軽量で目に見えないものです。どれが本当のインフラストラクチャーなのかは、問題ではない。それよりも、われわれの物理的な現実世界に、ビット(電子信号)によって構成される新たな層がかかるということです。

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