No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載01 コネクテッドカーが本格稼働
Series Report

交差点での事故を減らす

V2Xとは、クルマ(Vehicle)から(to)他のモノ(X: Everything)への接続をワイヤレス通信で行うことである。目的として、例えば交差点での事故を回避することが挙げられる。実用化にはまだ至ってはいないが、V2Xでは交差点に設置した通信装置とクルマとをワイヤレス通信でつなぐことで、現在の状況を把握できる。具体的には、運転中に交差点に差し掛かる時、右からやってくるクルマがトラックの陰で見えないとする。トラックが停止したので交差点を渡ろうとすると、トラックの陰にいた乗用車が飛び出し衝突する可能性がある。

この場合、トラックの陰にいるクルマの存在を交差点の通信装置が教えてくれれば、自分も停止することができる。つまりクルマ同士の通信もさることながら、クルマと交差点の通信も事故防止には重要なのだ。

自動運転車の各段階
[図2] 自動運転車の各段階
レベル3の条件付きとは、周囲のモニタリングは自動だが、ドライバーがいつでも運転できる態勢を保っていることが条件。レベル5が完全自動運転。
出典:SAE

自動運転が実現される要件としても、レベル4の自律運転とレベル5のドライバーレスではV2VやV2Xが必要だとしている。V2VとはVehicle to vehicleの略で、クルマ同士がつながる通信のこと。走行中も停止する時も一定の車間距離を保つことができる。

通信方式は802.11pでの実験が多い

このような通信には、Wi-Fi規格の一種であるIEEE 802.11pを使うことが多かった。この規格はクルマ専用の通信といえるDSRC(専用短距離通信)規格の一つでもあり、2011年に、車車間通信向けのIEEE 802.11pの実証実験を最初に行ったのがNXPセミコンダクターズだ。この実験は、オーストラリアのワイヤレス通信技術企業のコーダワイヤレスと共同で行われている。コーダワイヤレスは2004年に創立されたITS(Intelligent Transport System: 高度道路交通システム)の先進企業で、NXPとの実験によりコーダワイヤレスは2013年の1月、V2Xシステムの開発のためNXPとシスコからの出資に道筋をつけた。

802.11p技術は、一般に使われているWi-Fiと比べ、強い出力の電波で送受信するため600~700m程度離れていても受信できる。また、屋外の電波は高層ビルなどに反射したり散乱されたりするため、一つの電波が分散されてマルチパスを生じ、受信しにくいことがある。しかし、802.11p技術は時速90kmで高速道路を走行している状況でも、データレートは10%程度しか低下しないことをNXPは実証している。同社は802.11pのチップを組み込んだ車車間通信モジュール(図3)を、2014年暮れにティア1サプライヤ(自動車メーカーに部品やサブシステムを直接納入する1次業者)のデルファイに納入しており、それを搭載したGMのキャデラックが2017年に発売される予定である。

NXPセミコンダクターズのチップを搭載した通信モジュール
[図3] NXPセミコンダクターズのチップを搭載した通信モジュール

しかし802.11p技術は国によって周波数も変調方式も異なるため、各国の仕様に合わせて作るにはコストがかかりすぎる問題がある。また、仕様が流動的であれば専用のチップを作る訳にはいかず、実験が進まなくなってしまう。そこでNXPは、ソフトウエアを変えるだけでデジタル変調方式を変えることのできるSDR(Software-defined radio:ソフトウエア無線)技術を開発した。NXPはSDR技術を2013年のCESでデモしている(参考資料3)。

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