No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載01 コネクテッドカーが本格稼働
Series Report

第2回
トラックの縦列走行が先行、通信方式の競争も

 

  • 2017.7.31
  • 文/津田 建二
トラックの縦列走行が先行、通信方式の競争も

自動運転はコネクテッドカーが前提となる。クルマが、ほかのクルマや交通インフラとつながる究極の目的は、交通事故をゼロにすることである。交通事故は、ドライバーのちょっとした気の緩みや乱暴な運転などによって起きることが多い。「自動運転なんかいらない、運転する楽しみがなくなる」という声を聞くことは少なくないが、自動運転の本質はドライバーの不注意をマシンが補うことにある。だから、自動運転とドライブを楽しむことは、反する訳ではないのだ。今回の記事では、コネクテッドカーの事例や関連テクノロジーを紹介していく。

クルマが外部とつながるための通信手段として、W-LANやセルラーネットワークなど、さまざまなものが出てきた。すでにNXPセミコンダクターズとコーダワイヤレスでは、通信による複数台の縦列走行実現へ向けた最終段階まで来ている。またヨーロッパでは、CO2を削減するという環境対策の面からEVが推進されているが、EVはバッテリ残量確保のために交通センターとつながっており、常にバッテリステーションの情報が送られてくる。さらに、トラックを自動運転にすることで排ガスを減らすという試みも検討中だ。

ダイムラーのトラックの縦列走行

すでにヨーロッパでは、トラックの縦列自動運転の実験が始まっている。例えば、ドイツのダイムラーのトラック部門ダイムラー・トラックは、世界中で走行している40万台の自社製トラックを、独自ネットワークを通してつなげているという。同社は2013年以来、コネクテッドカーを戦略の一つに掲げている(参考資料1)。トラック同士、あるいはトラックと運送業者や道路状況センターをつなぐコネクテッドカーによって、交通渋滞を避け配送効率を上げようとしている訳だ。さらに、複数台を縦列走行させることで、空気抵抗を減らし燃費を改善する試みも行われている。

ダイムラー・トラックは、2016年までに5億ユーロをコネクテッドカー技術に投資し、それを元にした新サービスとデジタル化ソリューションを創造してきた。今後は新サービスパッケージやテレマティクス(コネクテッドカーによる遠隔地からの情報提供)サービスに力を注ぎ、さらにデジタル化を進めるためのフレームワークを提案していくという。また、ダイムラーは傘下のメルセデス・ベンツサービスのデータセンターともつながっており、そこからあらゆるデータを吸い上げている。

ダイムラー・トラックでは、トラックに搭載した400のセンサから送られてくる大量のデータをすでに収集している。これらのデータは、1億3000万行からなる巨大なソフトウエアと常にやり取りしており、渋滞を避けるためのデータベースとして保存されている。2015年にドイツで起きた交通渋滞は56万8000件もあり、これは延べ110万キロメートルに相当する距離だという。ダイムラーでは、交通状況をリアルタイムで情報共有することにより、インテリジェントセンサを搭載したトラックは渋滞を避けながら走行することができるようになろうとしている。また、走行中のトラックの25%は何も積んでいない空の状態だが、これを減らす(稼働率を上げる)のにもすべてのトラックの状況をリアルタイムで把握することが欠かせない。

図1はトラック同士が常に15メートル間隔で走行することで、渋滞を起こさずスムーズに流れる状況を作り出すコンセプト図である。クルマ同士が規則正しくつながって走行すると空気抵抗が減り燃費が良くなる。将来は、後続車を自動運転モードに変えることができそうで、これによりドライバー不足は解消される。

欧州でのトラックの縦列走行実験
[図1] 欧州でのトラックの縦列走行実験は済んでいるが実用化はこれから
出典:ダイムラー

実際の高速道路を走るトラックでは、車間距離は150メートルほど必要だが、ワイヤレス通信でつながれば車間距離は80メートルほどで十分であることを実証している。さらに、ドライバーが前のクルマの動きに反応するまでの時間は平均1.4秒だが、自動走行だと0.1秒で済むという。つまりより安全になるという訳だ。

日本政府も2017年5月30日に成長戦略の素案として、物流部門での生産性を上げる方針を打ち出した。これにより、高速道路におけるトラックの複数台での縦列走行を2020年までに実現し、早ければ2022年までに商用化する方針だとしている。

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