No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview

個人商店が無理なく使えるIT

 

──スマホでは、携帯電話の電波の他にも、無線LAN、最近では電子マネーの決済などに使われる近距離無線技術「NFC」など、さまざまな情報伝達手段があります。あえてビーコンを使って通知する意義は、何なのでしょうか。

お話ししたように、ビーコンでは、ごく限られた情報だけを、特定のお店などからお客様のスマホに"のろし"のように通知します。また、通知する範囲も、条件がよければ50mと、比較的近距離です。この限られた情報を近距離にあるスマホに伝えるという通信レベルが、商店街などのお客様向けサービスの提供手段として、ちょうどよい塩梅を生み出します。

iBeaconでは、「Bluetooth Low Energy(BLE)」と呼ぶ超低消費電力の通信技術を使って、0.1秒間隔で通知信号を送ります。また、1回に送る情報は、提供する16ビットの2つの番号「major」「minor」だけです。つまり圧倒的に情報量が小さいのです。

こうした技術の特性から、通知時の消費電力は他の通信機器に比べて圧倒的に低く、またビーコン自体の電子回路の構成も極めて単純で、小型化、低コスト化が容易です。実際現在使っているビーコンは、ボタン電池1個で1年間連続使用できます。また価格も、比較的安価なものですから、導入コストも運用コストも安く済みます。今後、ビーコンが大量生産されれば、コストはさらに安くなることでしょう。実際、ビーコンの利用が先行して進み始めた中国では、既に原価が1個10円のビーコンが利用されています。

──つまり、商店街の商店が利用するIT機器として、使い勝手がよいのですね。

それだけではありません。ビーコンでは、お店とスマホを持ったお客様の間の距離を4段階で判別できます。つまり、歩いているユーザーが、店舗に近づいている様子が分かるのです。さらに、スマホ内に蓄積されたユーザー情報も加味して、お客様の属性や現在位置に応じた情報をサーバーから持ってきて提案することもできます。こうしたビーコン固有の特性をどのように生かすかが、より効果的なサービスを考えるうえでのポイントです(図3)。

ビーコンを使ったサービスのイメージの図
[図3] ビーコンを使ったサービスのイメージ

私たちは、これまでにGPSでお客様の位置を把握し、位置に応じた情報を配信するサービスを提供していました。しかし、どうしても測位に大きな誤差が出てしまい利用できる場面が限定されてしまう課題がありました。ビーコンならば、通知先となるお客様を高精度で把握できるため、より価値が高いサービスを提供できます。

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