No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview

情報発信者にもデジタルデバイド

──高円寺と荻窪では、どのようなサービスを提供しているのですか。

高円寺と荻窪の商店街では、実証実験をしながら、よりよいサービスを生み出すべく、試行錯誤しています(図4)。

高円寺と荻窪で実践しているサービスの図
[図4] 高円寺と荻窪で実践しているサービス

商店街では一般に、IT化が進まないという課題を抱えています。高円寺も荻窪も、ITに詳しい若者がたくさん住んでいます。全国規模のチェーン店は、スケールメリットを生かして、こうした若者に響く、ITを駆使したポイントサービスなどを展開しています。地元商店街は、こうした店舗に対抗していかなければなりません。

しかし、実際にIT化に取り組まなければならないのは、個々の商店になります。手間やコストが負担になり、ホームページの制作だけではなく、会計ソフトの導入や電子マネーへの対応さえもできないのが現状です。商店ごとの意識やスキル、コスト体力の違いも悩みです。情報の利用者だけではなく、情報を発信すべき側にもデジタルデバイド(ITに対する知識や理解の差)があるのです。そこで、商店街規模で、インフラを整備し、IT化を進めるキッカケにしていこうというのが我々の取り組みです。

──高円寺と荻窪では、サービスに違いがあるのですか。

それぞれの商店街では、地元の地域特性を生かしたサービスを模索しています。高円寺と荻窪では、同じ中央線沿線でありながら、街の性格と住民の層が異なります。こうした街の特性に合ったサービスを考えることが、成功の鍵を握っているともいえます。このため、私たちのような小さな会社が、キメ細かいサービスの作り込みをしていく必要があるのです。

高円寺は、外から遊びに来る人が多い街です。春には「高円寺びっくり大道芸」、夏には「東京高円寺阿波おどり」、秋には「高円寺フェス」、冬には「高円寺演芸まつり」と、大きなイベントを1年のうちに4回開催し、外からの人を受け入れています。また、全国規模のチェーン店がびっくりするほど少ない街でもあります。また、交通の便がよい割に、安く借りられる小さな店が多いため、意外と若い店主が多いことも特徴です。外からせっかく来た人が、その街ならではの店を巡ることを支援する、一期一会を演出するようなサービスが向いているかもしれません。

荻窪の商店街のお客さんは、地元住民が中心です。杉並区が子育て世代向けの環境を整えていることもあり、子育て世代が多いことも特徴です。その一方で、高級住宅街という側面もあり、昔から住んでいる人もたくさんいます。さらに、中央線沿線にはかつて米軍基地があった名残か、今でも住んでいる外国人の数が多い街がたくさんあります。全国規模のチェーン店も数多くあるので、こうした店とも競合していかなければなりません。商店にとっては、一見さんの呼び込みより、ポイントサービスなど馴染み客をじっくりと育成するサービスが重要になります。

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