No.010 特集:2020年の通信・インフラ
Scientist Interview

動いているモノも追跡できる

 

──サービスの開発と試行した結果はいかがですか。

商店街の特性だけではなく、レストラン、クリーニング店、電器屋など店の種類によって、どのようなサービスを提供していくのか、考えていく必要があります。同じ商店街でも、店同士がライバルである場合もあるので、なかなか難しいところではあります。こうした多様なニーズに応えるための明確な答えは、今はまだ持っていません。異業種のお店のサービスを融合させて、ビーコンを点ではなく、線や面にして使うようなサービスも考えた方がよさそうです。現在、高円寺や荻窪のお店の皆さんと話し合い、アイデアを出しながら、最適なサービスを模索しています。こうした一つひとつの取り組みがノウハウとして蓄積し、将来のよいサービスにつながると考えています。

また、東京オリンピックの開催が近づいているので、これを契機に外国人にどのようにアピールしていくのかというのも焦点になってくると思います。最近は、買い物に訪れる外国人も増えているようです。オリンピックでは26カ国語への多言語対応が必要、という話も出ています。これを看板などで実現しようとすると大変です。スマホの個人情報とお店や街中の要所に置いたビーコンからの通知を一緒にすれば、簡単に多言語対応ができます。

──地元に密着したサービスを提供する手段として、ビーコンの可能性を感じますね。

高円寺では毎年、商店街を練り歩く阿波踊りが開催され、数多くの見物客が集まります。観客が立ち並ぶ商店街内の細い道を、分刻みで多くの連(阿波踊りのグループ)が進んで行きます。2015年の高円寺の阿波踊りで、実験的な試みもしてみました。これまでビーコンは、お店に置いて利用していました。阿波おどりの連が持つ高張提燈(たかはりちょうちん)にビーコンを取り付けて、移動する連が今どこにいるのか、スマホのアプリ上で一目瞭然に分かるサービスを提供したのです(図5)。観客の前をビーコンが通ると、観客のスマホのGPSで位置を割り出し、その情報をサーバーに吸い上げて公開する仕組みです。実証実験の結果、こうした動いている対象も、しっかりと追跡して、情報提供に利用できることがわかりました。

阿波おどりの連にビーコンをつけて、動いている対象からも通知を発信できることを確認の図
阿波おどりの連にビーコンをつけて、動いている対象からも通知を発信できることを確認の図
[図5] 阿波おどりの連にビーコンをつけて、動いている対象からも通知を発信できることを確認

さらに、蓄積した情報をビッグデータ化し、それを活用することも検討しました。時間帯による混み具合や、観客が追跡要求を出した連のランキングなどです。こうしたデータは、トイレの配置、警備計画などにも利用できます。また、焼き芋屋のように移動する店舗の集客や、高齢者や子どもの見守りなどに応用することも可能だと考えています。

──ビーコンを利用したサービスの普及には、どのような課題があるのですか。

まずビーコン自体を普及させて、認知度を上げていく必要があります。またサービスを提供するうえでの最大の課題は、お客様に、スマホのBluetooth機能の電源を、常にオン状態にしてもらうことです。

ビーコンの可能性を啓蒙し、使い勝手のよい環境を整えるために、「まちなかBeacon普及協議会」を作りました。多くのサービス事業者がビーコンを使ったサービスを提供することは喜ばしいことではあります。しかし、それぞれが独自仕様のビーコンを用意し、お店がそれら全てを置かなければならない状態になっては、本格的な普及は望めないと考えています。

まちなかBeacon普及協議会では、ビーコンから通知するID、URLを登録して、多くのサービスプロバイダーが共有利用する「まちビーコン」と呼ぶ仕組みを作っています。さらに、こうした仕組みを活用するためのアイデアを創出するアイデアソン、ハッカソン*3も開催していきます。こうした部分は、インフラとして共有すべき非競争領域であり、各社が競争すべきは個々のニーズに対応していく部分であると考えています。

[ 脚注 ]

*3
アイデアソン、ハッカソン: 特定のテーマについてグループ単位でアイデアを出し合い、それをまとめていく形式のイベント。アイデア(Idea)とマラソン(Marathon) を合わせた造語。また、特定のテーマに興味と知識を持ったITエンジニアやデザイナーらが集まってグループごとにソフトウェアを開発・改良し、その完成度を競うイベントを「ハッカソン」という。(Hackathon:ハッキングの Hackと Marathon を合わせた造語)
 

Profile

市川 博康(いちかわ ひろやす)

スマートリンクス開発責任者、まちなかビーコン普及協議会 事務局

1987年 株式会社富士通プログラム技研に入社、2002年に独立後はオープン系、WEB系SEとして各種システム開発等を経て、自動車旅行推進機構、観光情報流通機構等での観光情報の標準化活動や地域振興プロジェクトに参加。
2012年にGPSを用いた商店街振興プラットフォーム「まっちとくポン」を開発し、スマートートリンクスを設立、現在に至る。
現在は、スマートフォン等のモバイルデバイス、iBeaconをはじめとした ビーコン技術を用いて社会的な課題を解決することを目指し活動中。

Writer

伊藤 元昭

株式会社エンライト 代表。

富士通の技術者として3年間の半導体開発、日経マイクロデバイスや日経エレクトロニクス、日経BP半導体リサーチなどの記者・デスク・編集長として12年間のジャーナリスト活動、日経BP社と三菱商事の合弁シンクタンクであるテクノアソシエーツのコンサルタントとして6年間のメーカー事業支援活動、日経BP社 技術情報グループの広告部門の広告プロデューサとして4年間のマーケティング支援活動を経験。2014年に独立して株式会社エンライトを設立した。同社では、技術の価値を、狙った相手に、的確に伝えるための方法を考え、実践する技術マーケティングに特化した支援サービスを、技術系企業を中心に提供している。

http://www.enlight-inc.co.jp/

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