No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載03 医療・ヘルスケアの電子化
Series Report

PCやスマホとの通信がマストに

これまでの血圧計や体温計、体重計、血糖値計など、健康管理をするための測定装置は、個別の独立した機器が多く、データを見える化して正確な診断を行うことができなかった。データを見える化するためには、パソコンやスマートフォンなどのデータ処理装置につなげる必要があるのだ。

また、医師不足の遠隔地で、医師に血圧などの数値を報告することが義務付けられているとしても、たいてい患者は低めの数字を申告する、とある医師は言う。正確な数字でなければ医師は正確な診断をすることができない。こうした事例を解決するためにも、従来の測定装置とデータ処理を行うパソコンやスマホが通信する必要が出てきている。

スマホとつなぐ

一方、血圧計や体温計などを開発するメーカーにとって、通信回路を内蔵するデバイスの開発は大きな成長の機会でもある。従来の医療機器メーカーだけではなく、アップルやグーグルなどが参入の機会をうかがっているのはそのためだ。

しかし、ヘルスケア端末を実用化するためには、厚労省による医療機器としての認定と、実際にそれを使ってみる医師の認定が必要だ。ゆえに、これまで医療機器設計・製造の経験がない企業が製品化するのは難しい。どれほど精度の良い機器をメーカーが製品化しても、医師に「そのような機械で測定したデータを信用できますか?と疑われてしまうと、医療機器として販売できないからだ。そのため、最初から医師を開発グループに入れた体制でなければ、医療機器としての実用化は難しい。

アップルやフィットビットのウェアラブル端末が医療機器になりえないのは、このためである。だから、医療機器ではなく、「活動量計」と名付けているのだ。現状、こういったヘルスケア端末は、IT機器メーカーではなく、医療機器メーカーから出始めている。

実用化に向かう

2014年12月に近距離無線Bluetooth Low Energyと呼ばれる通信規格に準拠する血圧計と体温計を、日本の医療機器メーカーであるA&Dが商品化した(参考資料2*2)。しかも、国際的な認証機関であるPersonal Connected Health Alliance(PCHA*1)からの製品認定も受けた。この装置は、血圧計と体温計に近距離通信規格Bluetoothの最新版Bluetooth Smartに対応する通信回路を設け、血圧と体温のデータをスマートフォンやタブレットに送り、血圧や体温の履歴データをスマホなどで見ることができるというもの。その際には、同社が開発したスマホ用のアプリを使う。

Bluetooth Smartによりスマホで脈拍と酸素濃度SpO2の推移を見られるの図
[図6] Bluetooth Smartによりスマホで脈拍と酸素濃度SpO2の推移を見られる
出典:A&Dのプレスリリース

A&Dは2015年11月には、脈拍と動脈血酸素飽和濃度SpO2を測定するパルスオキシメータTM1121も発売(図6)。これもBluetooth SmartあるいはNFC(ニアフィールド通信)という近距離通信規格に対応し、測定した血中の酸素濃度と脈拍のデータをスマホやタブレットなどに送り、そのデータの履歴をグラフ化して見ることができる。A&Dは医療機器メーカーであり、これまでもA&Dの製品を使ってきた医師が顧客にいるため、認定を得られやすいのだ。

[ 脚注 ]

*1
PHCA
PCHAは、コンティニュア、モバイルヘルス、医療情報管理システム学会により創設された国際的な非営利団体。ITをつかった健康管理ソリューションの利用を促進することで、様々なライフスタイルに合わせた健康増進を推進している。

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