No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載03 医療・ヘルスケアの電子化
Series Report

規格の標準化

測定した血圧や血糖値、脈拍数、心拍、体温などのデータをパソコンやスマホに送信する場合には、世界で統一的な規格にしなければつながる機器とつながらない機器が出てしまう。これでは宝の持ち腐れになる。これを避けるため、無線通信でデータを送るためのハードウエアと、プロトコル(手順)などのソフトウエアを統一しておこう、という考えが生まれた。これを提唱したのは世界の半導体トップメーカーのインテルだ。通信方式と規格を統一し世界中の機器とパソコンをつなげるためのアライアンスを策定したのが、非営利団体のコンティニュア(Continua)である。会員には、インテル、A&Dに加え、富士通、オラクル、フィリップス、クアルコムなど世界の有力なIT、エレクトロニクス、半導体の企業が集まっている。コンティニュアは、つながるための設計ガイドラインを標準規格として定めており、会員に情報を公開している。

当初、アライアンスはコンティニュアだけではなかった。モバイルヘルス(mHealth)といった団体も別のアライアンスグループを形成していたのである。モバイルヘルスもスマホやタブレットを使ってヘルスケア情報を見ることを目的とした。しかし、標準規格に沿ったデバイスを認証する機関も必要という訳で、一足先に規格を決めていたコンティニュアが2009年2月に設計ガイドラインを発表し、それを標準として使うことになった。その認証機関が非営利団体のPCHAである。

新たにヘルスケアビジネスで機器販売を始める場合にはPCHAの認証を受けなければならないが、日本にもPCHAの認定を受けられる機関がある。アリオン社だ。元々台湾をベースにしたAllion Lab社の日本法人であるが、ここの認証試験に合格すれば、コンティニュアの規格ロゴを授与できる。

最高齢国家の行方を世界は見ている

世界は日本の動向を見守っている。図1で見られたように、日本が世界で最も高齢化の進んだ国になったからだ。日本が高齢化問題をどのように解決するか、世界は日本に注目している。ある意味で、これは日本の技術の価値を高める絶好のチャンスでもある。解決の切り札を実証実験し、高齢化社会の問題点を解決することで日本の技術のプレゼンスは大いに高まる。

しかし、コンティニュアをはじめとした標準規格を決めるなど、世界はすでに日本よりも進んでいる。では、日本はどうやって世界のお手本になればいいのだろうか。可能性があるのは、おそらく日本が得意なモノづくりの分野であろう。つまり、国内メーカーのA&Dのように、ヘルスケアデータとスマホやパソコンをつなぐ商品をたくさん世に出していけばいい。日本発の標準規格であるかどうかは、こだわる必要はない。

また日本国内では、医療のIT化や自動化は、工場やオフィスと比べると大きく遅れている。電子カルテのフォーマットも全国の病院で統一されていない。だから、一つの病院で診断されたデータ(カルテ)は、その病院でしか使えない。病院を変えたら、また最初からカルテを作らなければならず、それだけでも手間がかかる。健康診断に使う機器の電子化も遅れているのが現状だ。

しかし、日本が世界に先駆け、積極的に医療の電子化を進め、医療費の削減や病院不足の解決策を世界に発信できれば、高齢者がイキイキと暮らす国の手本となりうるだろう。

[ 参考資料 ]

*1
平成26年度版高齢社会白書(概要版)
http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2014/gaiyou/s1_1.html
*2
「世界初。国際標準化推進団体Personal Connected Health AllianceのContinua認証を取得したBluetooth Low Energy対応の血圧計及び体温計」(2014/12/18)
http://www.aandd.co.jp/adhome/whatsnew/2014/newsrelease_pcha_20141218.pdf

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

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