電力を、自分たちでマネジメントする時代へ
オンデマンド型電力ネットワークが作る新たな社会
2012.4.1
これまで、電力会社から送られて来る電力を消費するだけの存在だったユーザーが、自ら電力をつくり、使用量を設定して生活する。そのような社会を現実のものにする研究が、今、すすんでいる。
家庭での個人の行動を見守る、独自のスマートタップを開発し、電力を自らマネジメントするオンデマンド型電力ネットワークを開発する京都大学大学院の松山隆司教授に話を伺った。
スマートグリッドは、電力供給者の視点で考えられたエネルギーマネジメントの仕組み
──松山教授は、以前から「エネルギーの情報化」というコンセプトを掲げられています。現在注目が高まっているスマートグリッドも、エネルギーと情報のネットワークを統合するという点では似ていると思いますが、どのように異なるのでしょうか?
2003年頃からエネルギーの流れを情報として捉え、制御できないかと考え、研究を進めてきました。リアルワールドと情報社会をどう関係づけるかという大きなテーマの1つでした。
同様の考え方に基づいて、米国から広まってきているスマートグリッドは、元々電力事業者の系統制御の高度化から始まっています。
つまり、電力需要が電力事業者の供給能力を上回ることが予想される場合、電力事業者としては需給バランスをくずさないようにするため、需要を抑制しようとします。その時に使われる仕組みが「デマンドレスポンス」です。例えば、翌日の午後に電力需要のピークが来そうだと予測したら、電力事業者はアグリゲーターというサービス事業者に依頼して需要の削減を要請します。アグリゲーターは、電話やファックス、を使ってユーザーに削減をお願いし、うまく削減できれば電力事業者から協力金を受け取るという仕組みになっており、これは何ら新しいものではありません。日本でも、大口のユーザーに対しては同じことが行われています。
オバマ大統領がやろうとしたのは、この制度のオンライン化です。各家庭にスマートメーターを取り付け、ネットワークを通じて電力消費をモニタリングすることで、ユーザーが実際にどれだけ削減したかがリアルタイムで分かるというわけです。
しかし、こうしたデマンドレスポンスの仕組みには問題があります。電力会社から「需給バランスを図るため、お宅にスマートメーターを取り付けました。その経費として月に何百円か払ってください」と言われたらどう思いますか?
──正直、払いたくはありませんね。
そうでしょう。この場合のデマンドレスポンスは電力会社のためですから、ユーザーとしては余分な経費は払いたくないでしょう。実際、米国では「新たな負担は払いたくない」と訴訟まで起こったと聞いています。
その一方、スマートメーターを設置し、消費電力の「見える化」をすれば、ユーザーが自ら消費電力、コストを抑えることができるようになり、ユーザーにとってもメリットがあるという見方があります。しかし、これもそれほど劇的な効果があるとはいえないのではないかと思われます。それを端的に表しているのが、Googleやマイクロソフトがわずか数年で電力消費の見える化サービスから撤退したことでしょう。それぞれ"Google Meter"、"Hohm"という省エネ支援のウェブサービスを展開していましたが、2011年の後半にはどちらもサービスを終了しています。消費電力を「見える化」しても、省エネ行動を毎日毎日継続するのは大変です。