No.013 特集 : 難病の克服を目指す
Scientist Interview

── このホットステージはどうやって作ったのですか?

図3で示したホットステージは、マイクロ波の共振器(以下「キャビティ」)になっています。キャビティの直径は21cm、高さは15cm程度で、キャビティの表面がハニカム構造になっています。このハニカムを形成する六角形の対角線は2.5cm程度であり、マイクロ波の波長よりも小さいため、マイクロ波が六角形の外へ出ていくことはありません。しかし、そこに動物のような水分を含んだものがあると、水の共鳴エネルギーでマイクロ波は出ていきます。それはこのキャビティとマウスの組織が共鳴するからです。この共鳴キャビティを作るため、私は同じ研究室で働く田辺勇二氏と一緒に秋葉原で部品を購入し、組み立てました。

── 動物実験で、光によりその動きをコントロールする目的は?

例えば、狙った特定のニューロンが痛みを感じるものなら、それを取り除くことができるようになります。また、ゆくゆくはアルツハイマー病の治療にも生かせるだろうと信じています。

── 今後、ペースメーカーなどは商用化するのですか?

商用化については、スタンフォード大学のテクノロジー管理オフィスと話し合いをしています。私自身は、商用化する仕事に関係していませんが、個人的には、以前受け持った学生に担当してもらいたいと思っています。商用化のためにはまず、産業界にアプローチし、3社程度にライセンス供与したいと考えています。そのうちの1社には、早期の段階で評価して、アプリケーションを想定したリスクも含めて検討してもらいます。もう1社には最初からこの技術を使ってカプセルやペースメーカーを商品に育てていってもらいます。私たちは、商品化しやすいようにさらに小型化、効率化の方向なども示します。

ライセンスや商用化に関して責任を持つのは、スタンフォード大学のテクノロジー管理オフィスなのですが、かれらはこの技術を疼痛緩和に使えるのではないかと言っています。ほかにも、膀胱炎の治療にも使える可能性を指摘しています。ただし、私自身は商用開発の研究にはあまり興味がありません。

大学は研究を続ける場所であり、商用化は産業界の仕事です。大学の研究のモチベーションを持続する方法としては、やはり研究を行い、産業界がその成果を使って商用化するのがあるべき姿だと思います。研究成果が出たら商用開発に進むのではなく、研究をさらに深める、進めることに努力するのです。産業界はライセンスを受け取り、その技術の商用化を進めます。

テクノロジー管理オフィスの提案する疼痛緩和という用途は、どの国でも応用できると思います。日本にも医療機器を設計製造している企業があるので、商用化を希望されるのであれば、もちろんライセンスの対象となるでしょう。私としても、超小型の第2世代ペースメーカーなどの試作品に、日本の医療機器企業が興味を持ってくれることを望みます。

テクノロジー管理オフィスは、スタンフォード大学で開発した技術を、企業にライセンス供与し、ロイヤルティを受け取るビジネスをしています。研究者は商用化可能なテクノロジーを生み出し、ライセンスビジネスは管理オフィスに任せる。こうした役割分担により、私はひとつの研究フェーズが終わっても、それをさらに発展させるために研究生活に戻ることができるのです。

エイダ プーン(Ada Poon)
 

Profile

エイダ・プーン(Ada Poon)

スタンフォード大学准教授

香港生まれの香港育ちで、香港大学で電子電気工学を学んだ後、2004年にカリフォルニア大学バークレイ校の電気通信学部で博士号を取得。インテルに入社、主任研究員として1年間従事した。彼女のアドバイザ教授が設立したベンチャーSiBeamに入社、ミリ波とMIMO技術を駆使するギガビットのワイヤレストランシーバを設計する。その後、大学に戻り、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の電子通信学部の研究員として働く。その後、自分の専門をワイヤレス通信からバイオメディカルシステムの集積化へ移し、2008年よりカリフォルニア州のスタンフォード大学の電気工学部で働く。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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