第2回
事例は産業用IoTの世界から
- 2017.4.10
IoTの応用が始まっている。その用途は、工場の設備に取り付け、センサから常時送られてくる温度や圧力、振動などのデータをモニターすることで異常を検知し、故障に至る前に部品やモジュールを交換しておくというものである。これは予防保全とも言われているが、どの設備のどのようなデータをモニターするのか、それらのデータがどのようになったら異常と判断するのかは秘中の秘。企業ごとにあるいは工場ごとに違うため、IoTの応用データを明らかにしている所は極めて少ない。ここではその、数少ない事例をいくつか拾ってみる。
先日、最大手の半導体メーカーがIIoT(工業用IoT)の実験として、加速度センサからの振動を示す波形をパソコンでモニターするというデモを、ある組み込みシステム系の展示会で行っていた。「その配管の振動波形がどのようになった時を異常と判定するのですか?」とブースの担当者に尋ねると、真剣な顔を見せ「それは絶対に言えません。それこそがノウハウです」と語ったのだ。この判定基準は簡単に求められるものでは決してなく、さまざまなデータを収集し、それらの相関を求め、異常と正常との境目を求めなければならないが、それには膨大なデータを採る必要がある。
目的はダウンタイムゼロ
IIoTの最大の応用の一つは、工場や石油化学プラントにおける予防保全である。これまでは、工場の機械が突然故障した場合、その原因を突き止め、その故障の原因となった箇所の部品やサブシステムを交換していた。こうして書くといとも簡単にできるようだが、故障の原因を求めるだけで何日も、時には何週間もかかることがある。その間、故障した機械を止めなければならず、ほかの機械で作業を代替しなければならない。当然、作業効率は落ち、生産効率は極めて悪くなる。
予期せぬ故障による機会損失は極めて大きい。ある調査機関はこの損失を、毎年世界の発電機(蒸気・ガスタービン)・航空(ジェットエンジン)・鉄道(貨物運輸)の生産額の5%、すなわち200億ドルと見積もっている。だからこそ、IoTによる予兆保全が注目されているのである。例えば、IoTを使った生産性の向上とダウンタイム(故障時間)ゼロを目指すゼネラル・エレクトリック(GE)社は、蒸気・ガスタービンによる火力発電システムにおいて年間累計5200万時間もの稼働サービスを続けており、機会損失を回避しているため70億ドルの価値があるとしている。
ここでは、工場の予防保全を実験的に導入してきたアメリカの工業システムメーカーであるフローサーブ(Flowserve)社、半導体メーカー、そして白物家電品を例として紹介する。
最初からコラボで協力
ポンプやバルブ、シール、油圧システムなどを供給するFlowserve社は、ソフトウエアベースの計測器メーカーであるナショナルインスツルメンツ(National Instruments: NI)社、クラウドのソフトウエアプラットフォームThingWorxを提供するPTC社、高性能コンピュータを提供するヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)社と組み、IIoTシステムを構築した。プラントの配管に直結するポンプ、配管、ポンプを動かすモータにそれぞれIoTデバイス(センサともいう)を取り付け(図1)、温度や流量、圧力、振動、電力などを計測し、データをHPEのエッジコンピュータに蓄積して解析している。
ポンプに取り付けたセンサからの計測データを2.5Mバイト/秒で送り、NIの汎用計測器ハードウエアCompactRIOで測定し、その測定データを、LabVIEWを使ってディスプレイ上で見る。ここでは、各種センサからの計測データに対して閾値(しきいち)を設け、許容値内であれば緑のランプが点灯し、許容値から外れると赤いランプが点灯しアラームが鳴るように設定されている。