No.013 特集 : 難病の克服を目指す
連載01 IoTの価値はデータにあり
Series Report

第3回
ビジネス成功のカギはエコシステム

 

  • 2017.4.28
  • 文/津田 建二
事例は産業用IoTの世界から

第1回で述べたように、IoTの目的は、インターネットにつなげることではない。顧客の工場の生産性を上げたり、小売業の売り上げを上げたり、業務の効率を上げたりすることである。そのため、工場内のクラウドを利用するイントラネットでさえ、IoTという言い方をすることもある。この第3回では、IoTビジネスを成功させるための要件、またさまざまなプラットフォームやコンソシアムの紹介など、IoTビジネスを紹介する。

IoTビジネスでは、そのシステムを理解し、どこに対して付加価値の高いビジネスを行うのかを最初から意識しておく必要がある。例えば、半導体や部品メーカーもIoTを新しい分野だと認識はしているだろうが、戦略を間違うと単に部品を供給するサプライヤーに留まってしまい、利益を生みにくくなってしまう恐れがある。

IoTシステムはこれまでのスタンドアローンのエレクトロニクス製品とは全く違う。これまでのエレクトロニクス製品は、部品を組み立てて消費者に販売するというビジネスで、メーカー側はモノを作って販売し収入を得た。しかし、モノを作って売るという単純なビジネスをしても、IoTでは成功できない。モノ、つまりIoTデバイスそのものは、価値がそれほど高くないからだ。

IoTシステム(図1)では、IoTデバイスからセンサで集めたデータを、ネットワークを経てクラウドに集める。そして、そのデータをクラウドで管理・解析することで価値あるデータ(情報)に変換し、IoTデバイスの近くにいる顧客に戻す、という一連のサイクルが必要だ。この中で、デバイスメーカーは何を売るか、というビジネスモデルを考えなければならない。

IoTシステムの全体
[図1] IoTシステムの全体
出典:津田建二作成

だから、IoTシステムで何が最も価値が高いのか、を掴んでおく必要がある。IoTで最も価値があるのは、デバイスそのものよりクラウド上で解析されたデータ、そのモノである。解析されたデータは、顧客にとって有用な「情報」になるため、それを握る企業が存在価値を高め、IoTビジネスでは成功するだろう。

IoTシステムに群がる業者たち

では、IoTシステムをもう少し詳しく見ていこう。センサ端末、センサノードなどと呼ばれるIoTデバイスは、センサからのアナログデータをデジタルに変換した後、マイコンでデータを整理し、送信回路からデジタルデータをクラウドへ上げる。ここで参入するのは、半導体メーカー、電子部品メーカー、モジュールメーカーなどで、かれらはIoTモジュール(回路基板)を製造する。

インターネットにデータを送信するネットワークにおいて、従来のワイヤレスセンサネットワークでは、ZigBeeやIEEE802.15などのメッシュ型ネットワークを使い、ゲートウェイ経由でインターネットに接続していた。こうしたネットワークでは、センサから近くのセンサへデータを渡し、最後にゲートウェイを経て、インターネットへつなぐことになる。これには、大量のセンサをつなぐことができるというメリットはあるが、通信が途切れやすいという欠点もあった。

そこで、最近ではIoT専用のネットワークとして、LoraやSigfoxなどのLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークが登場しており、NTTドコモまでがLPWAネットワークを提供すると発表している。このLPWAは、データ通信速度が数十〜数百kbpsと遅いものの、低い消費電力で十数km先まで電波を飛ばすことができるという特長がある。携帯電話の基地局は半径2kmしか電波を飛ばせないが、LPWAはずっと遠くまで届くため、カバーすべき基地局の数は携帯電話よりもずっと少なくて済む。

この基地局の開設にあたっては、従来のモバイル通信業者も黙ってはいない。通信業者(キャリア)は従来のLTEネットワークを使いIoTデバイスを通信できるようにしている。その規格は大きく分けて2つあり、1つは速度が1Mbps程度のCat-M1と呼ばれる規格、もう1つが数十~数百kbpsと遅いNB(Narrow Band:狭帯域)-IoTと呼ばれる規格である。Cat-M1は移動するIoT向け、NB-IoTは静止しているIoTデバイスに向いている。キャリアは基地局の通信機器のソフトウエアを変えるだけでNB-IoTやCat-M1に対応できる機器を備えようとしている。こうしたキャリアはIoTネットワークの設置と運営を担当しており、NTTドコモは将来的に2つの規格でサービスを提供するのかもしれない。

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