再びエイラネットワークス社の例(図3)を引くと、この顧客は富士通ゼネラルである。そして、IoTデバイスは村田製作所のWi-Fiモジュールを使い、マイコンはルネサスエレクトロニクス社、ソフトウエアプラットフォームを提供するのがエイラである。さらに、クラウドそのものはアマゾン社のAWSを利用するが、中国ではテンセント社のクラウドサービスも利用している。これらのハードウエアやソフトウエアをまとめる企業が、エイラなどのインテグレータなのだ。
このように、PTCにせよ、エイラにせよ、ソフトウエア開発ツールを作るプラットフォームベンダーとの協力は欠かせない。
コンソシアムも続々と
そこで、コンソシアムも生まれている。工業用のIoTシステムではIndustry 4.0やIndustrial Internetなどのコンソシアムが生まれており、日本にもマイクロソフト社と東京エレクトロンデバイスが中心となって結成した「IoTビジネス共創ラボ」がある。この参加企業のうち、IoTデバイスのようなハードウエアを扱う企業は東京エレクトロンデバイスのみで、同社はIntel社をはじめとする半導体メーカーの製品やモジュール製品を提供している。残りはソフトウエア開発、コンサルティング、システムインテグレータ―企業なので、いかにIoTビジネスにソフトウエア産業が注目しているかがわかる。
このように国内でも、日立製作所やNEC、富士通などがクラウドプラットフォームを持ち、IoTデバイスのようなハードウエアは外部から調達して、自らのプラットフォームで生産性を上げることを顧客に提案している。つまりシステムメーカーがIoTシステムの主導権を握ろうとしているのだ。
しかし、システムのプラットフォームを利用して、デバイスメーカーからも顧客に提案できることはある。なんといっても、顧客に最も近い場所にいる業種はIoTデバイスメーカーだからだ。実際に、アナログデバイセズ社はPTC社と組み、顧客(工場)の設備にIoTデバイスを取り付け、データを監視している。その際、PTC Thingworxのツールを利用してデータを解析し、その結果を「見える化」するのだ。
顧客にとっては、業績向上のための有用なデータを見ることで、次の手を打つことができる。また顧客の近くにいるアナデバ社などのハードウエアメーカーは、顧客の求めるデータをフィードバックすることで、センサの検出範囲やデータの精度への要求などを知ることができ、次のデバイス開発にその知見を生かすことができる。価値のあるデータをハードウエアメーカーが握ることで、IoTデバイスを販売するだけではなく、販売後のメンテナンスや最適化サービスという新しいビジネスも開発できるようになる。このような例をみると、IoTビジネスを生かすも殺すも、メーカー次第ということになりそうだ。
Writer
津田 建二(つだ けんじ)
国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト
現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。
半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。