No.009 特集:日本の宇宙開発
連載02 生活と社会活動を一変させる、センサ革命
Series Report

実際の走行距離に応じて保険料が変わる

コマツと同様の動きは、自動車業界にも波及している。例えば、日産自動車の電気自動車「リーフ」は、不具合情報を含めたさまざまなデータを、各車に搭載したセンサを通じて取得し、テレマティックス通信ユニットでデータセンターに伝送して、蓄積し続けている。同社は、蓄積したデータを基に、ドライバーの運転行動やそれに伴うクルマの挙動などをビッグデータとして蓄え、自動運転車など将来のクルマの開発に役立てている。

損保ジャパンの走行距離連動型自動車保険「ドラログ」の仕組みの図
[図5] 損保ジャパンの走行距離連動型自動車保険「ドラログ」の仕組み
出典:日立製作所

リーフに搭載したセンサで得た走行データを活用した、自動車保険も登場している(図5)。損保ジャパンの自動車保険「ドラログ」には、毎月の走行距離に応じて保険料が増減する特約が設けられている。実際の走行距離が基準値よりも短い場合、その月の保険料を最大で10%減額、逆に長い場合には10%増額する。加えて契約者に安全運転を促すために、ウェブサイトで走行データとその分析結果をフィードバックするサービスも実施している。これによって事故率を下げ、契約者の利益とともに収益向上にもつなげている。

同様の保険は、欧米ではいち早く導入されている。米国の自動車保険会社のProgressive社は、運転状況に応じて保険料が変動する自動車保険「MyRate」のサービスを開始している。被保険者の車両に専用無線通信機器を搭載して、走行距離、運転の時間帯、急ブレーキや急発進といった被保険者の運転傾向を測り、交通事故の可能性を割り出し、保険料金を設定する。このサービスの開始によって、Progressive社の顧客には優良ドライバーだけが残り、高収益な会社になったという。今後、こうしたセンサを活用した保険は、住宅や工場の設備などの損害保険、そして生命保険や医療保険にも波及する可能性がある。

道路や橋梁などを低コストで機能維持

ここからは、センサを有効活用することで、これから日本や世界の国々が直面する社会問題の解決を目指した事例を紹介する。最初に紹介するのは、建設・土木の分野で、社会インフラの機能を効果的かつ最小限のコストで維持することを目的とした事例である。

2012年12月に発生した中央自動車道の笹子トンネルでの天井大崩落事故は、国内に多くの老朽化した社会インフラが残されていることを強烈に知らしめた。国土交通省は、今後20年以内で建築後50年以上を経過するインフラの割合は、実に50%以上に達するとしている。しかも、建設当時には耐震性基準が今ほど整備されていなかったため、大規模災害時の不安を常に抱えた状況にある。さらに、公共事業関連の予算削減と技術・人材の不足を理由として、補修はおろか、維持管理の定期点検さえ実施できないところもある。

こうした状況を改善しようと、道路や橋梁の実際の老朽化の度合いをモニタリングするため、インフラにセンサを設置する試みが進んできた。例えば、東京ゲートブリッジには、歪みや振動、傾斜、移動をモニタリングするセンサが48個設置されていて、橋梁の状態や利用状況をリアルタイムで監視する(図6)。センサを災害発生時の異常検知や平常時での異常の早期把握、車両通行状況の解析による点検・補修の優先度の検討支援などに役立てているわけだ。NTTデータが提供する「BRIMOS」と呼ぶこのシステムは、海外の橋梁でも利用されている。

橋梁モニタリングシステム「BRIMOS」の図
[図6] 橋梁モニタリングシステム「BRIMOS」
出典:NTTデータ

日本の総務省は、インフラの老朽化を察知できるセンサネットワークを、2025年までに日本の全ての橋に導入することを決めている。壊れてから補修・更新するのではなく、大規模修繕が必要になる前に補修して橋梁の寿命を延ばし、更新時期の平準化とコスト削減を図る狙いだ。現在日本の橋は、1km当たり年間45.8億円の保守点検費用を費やしている。それを8.5億円まで抑えることができるという。

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