No.009 特集:日本の宇宙開発
連載02 生活と社会活動を一変させる、センサ革命
Series Report

第2回
広がるセンサの応用

 

  • 2015.10.09
  • 文/伊藤 元昭

「センサを使いこなせ!」。革新的なビジネスの創出を目論むイノベーターが、このようなスローガンを掲げ始めた。家電製品やIT機器にとどまらず、建設・土木、農業、保険、芸能といった意外な分野でも、センサの活用による革新が進んできた。機器やサービスをユーザーがどのように利用し、どのような成果をあげたのか?それを提供した企業は、センサによって、ありのままの状況を知ることができるようになった。その結果、顧客の利用状況に合わせた新たな提案、成果に応じた課金など一歩踏み込んだビジネスを展開できるようになった。連載第2回は、センサ革命によって生み出された、これまでの常識を打ち破る価値を持った機器やサービス、ビジネスの事例を紹介する。

温度や照度のような「量を測るセンサ」から、機器やシステムを利用する「ユーザーの意図を察するセンサ」や、生活や社会活動の「状態や状況を測るセンサ」へ。前回は、家電製品や電子機器の機能を支える裏方的な役割を演じていたセンサが、人々の生活や社会活動を一変させるインパクトを与える時代の寵児に変貌し、「センサ革命」が起きていることを紹介した。

こうした新しい時代を拓くセンサをいち早く活用し、目を見張る成果を挙げた企業が既に数多く出てきている。これまでにない操作性を実現した機器と、自動車や金融といった異業種の機能を融合させた画期的なサービス、対価の考え方を根本的に変えたビジネスなど、新しいアイデアを盛り込んだ商品や事業が次々と登場している。しかも、ライフスタイルやビジネスモデル、社会制度を大きく変え、次世代の産業や社会のあり方を決定づけるインパクトを与えている。その波及効果は、IT、自動車、金融、土木・建設、農業、医療、芸能など、驚くほど広い分野に渡る。また、成果を出している企業の規模も、設立間もないベンチャー企業から世界有数の大企業まで幅広い。

今、システムやビジネスの開発で、イノベーションの創出を求めている事業家は、試しに、センサの有効活用を検討してみてはどうだろうか。手付かずの大きな果実が得られるかもしれない。既存の発想の枠を取り払い、想像力と創造力次第で、可能性は無限に広がる。今回は、こうした「センサ革命」の威力をまざまざと見せつける具体的な事例を、いくつか紹介する。これからの時代、どのような商品やサービス、ビジネスが市場を席巻していくのか、垣間見ることができるはずだ。

ゲームの中の世界にプレイヤーを没入させる

まず紹介するのは、Microsoft社の家庭用ゲーム機「Xbox」の操作向けに用意されたジェスチャー入力コントローラー「Kinect」である(図1)。

(上)Kinectの本体、(下)手術室での患者情報の閲覧の図
[図1] 革新的な機器操作を可能にしたMicrosoft社の「Kinect」
(上)Kinectの本体、(下)手術室での患者情報の閲覧
出典:Microsoft社

Kinectの本体には、「3D深度センサ」と呼ぶ距離を検知できる画像センサや高解像度の可視光カメラ、音源の方向や種類を高い分解能で区別できる4個のマイクなどが内蔵されている。赤外線を照射して反射光を赤外線カメラで撮影することで、暗闇の中での動きの認識も可能だ。電子機器の眼や耳として、高い性能を備えている。そして、こうした複数のセンサで検知した情報を認識・分析、解釈することで、「ユーザーの意図を察するセンサ」、「状態や状況を測るセンサ」が出来上がる。ゲームのプレイヤーの手、手首、腕や足、腰などの細かな動き、骨格の形とその動きを平面方向だけではなく、奥行方向も認識する。また、プレイヤーの身体的特徴の自動認識、環境音やテレビの音とプレイヤーの声の分離認識もできる。

Kinectは、プレイヤーにゲームの中の世界に入り込んだかのような体験を与えるために開発されたものだ。例えば、バレーボールゲーム。プレイヤーは実際にジャンプして、相手コートにボールを叩き込む動作をして、スパイクを打つ。汗だくになって体を動かしながらも、生身では不可能な超人的プレイをゲームの中で行うことができるのだ。

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