No.009 特集:日本の宇宙開発
連載03 実用期を迎えるフレキシブルエレクトロニクス
Series Report

オールプラスチックで真のフレキシブル

こういった方向とは違い、まともにプラスチックエレクトロニクス技術を使って、フレキシブル端末をビジネスにしようという動きもようやく出てきた。苦節10年。2005年創立の米国Polyera社(http://www.polyera.com/about.html)は、この8月にやっとフレキシブルディスプレイWove Bandを商品化した。これはアクティブマトリクスディスプレイ(図3)で、ユーザーの手の形に変化させることができるモノ。まだモノクロ表示の電子インクディスプレイ*1だが、この技術はカラーの有機EL技術にも使えるため、フルカラー表示はさほど遠い世界の話ではない。

フレキシブルなブレスレットに形成できるディスプレイの図
[図3] フレキシブルなブレスレットに形成できるディスプレイ 出典:Polyera

液晶や有機EL、電子インクなど、ディスプレイにはいずれもフロント面とバック面がある。フロント面に液晶や有機EL、電子インクなどの表示材料を形成し、バック面にそれらの画素1個ずつにオン/オフのスイッチ動作を与えるTFTトランジスタを並べている。従来の液晶やOLED(有機発光ダイオード)などは、トランジスタに固いアモルファスシリコン材料を使っていたが、Polyera社は柔らかい樹脂でできたトランジスタを使って、フロント面とバック面の両面の柔軟性を実現したのである。

このPolyera社の柔らかいトランジスタは、過渡的に曲げる力がかかっても安定した動作ができるようになったため、商品化を実現。トランジスタを作る材料は同社が独自に開発したものであるが、既存の液晶工場にも導入できるものだという。Polyera社のフレキシブルTFT(薄膜トランジスタ)技術は、インクジェット技術とロール・ツー・ロール製造技術*2を使うプリンテッドエレクトロニクスで形成できるとしている。詳細は不明な点がまだ多い。今後は、紙のように丸められるディスプレイや衣服に縫いつけられるディスプレイなどにも使えるとしている。

曲げられる電子ブック

かつて、プラスチックトランジスタを並べたディスプレイを使った電子ブックを販売したことのある、Plastic Logic社は今年の2月に会社を分割した。研究開発を目的とする会社と生産を目的とする会社に分け、それぞれ、FlexEnable社、Plastic Logic Germany社と名乗った。電子インクを使ったフレキシブルディスプレイ(図4)を1~15インチまで揃えており、日本でもエレクトロニクス商社の丸文(http://www.marubun.co.jp/product/semicon/devices/8ids6e000000sq9d.html)から入手可能である。

Plastic Logicの曲がるディスプレイの図
[図4] Plastic Logicの曲がるディスプレイ 出典:丸文のホームページ

Plastic Logic社は元々ケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所を2000年にスピンオフして設立された。アマゾンの電子ブック「キンドル」と似た製品「QUE」を出そうとして、海外展開を進め、2007年にドイツのドレスデンに製造工場を設立した。2010年にIT関係の展示会であるCESにQUEを出展し、すぐに電子ブックを出荷すると思われた。しかし、長い間、延期に次ぐ延期で、結局iPadの登場で出番を失った。その後2013年には、凸版印刷とライセンス契約をし、42インチの電子ペーパー方式のデジタルサイネージの試作品を2013年3月の国内の展示会に出展した。

この2月に分割・誕生したPlastic Logic Germany 社は、かつてのドレスデン製造工場を別組織にしたもの。一方、ケンブリッジにあった旧Plastic Logic本社は、研究開発会社FlexEnableという別会社になった。ファブレス(FlexEnable)とファウンドリ(Plastic Logic Germany)に分けたようなものである。

FlexEnableは、台湾の中華映管と共同で、この8月末に台北で開かれた展示会、タッチ台湾2015で、フレキシブルな有機ELディスプレイを展示した。フルのビデオレートである60Hzで動作し、その厚さは0.125mmと薄い。FlexEnableは、研究開発設備は持つが、生産工場は持たない。物理学や化学の知識、ノウハウを十分蓄えてきた経験を生かし、製造の得意なメーカーとパートナーシップを結び、材料開発や製品設計などを提供する。製造にはPlastic Logic Germany社も使う。

国内では凸版印刷がNEDOの支援を受けて、E Ink電子ペーパーディスプレイとフレキシブルTFT回路基板を用いた、「レール型電子棚札」(図5)を開発(http://www.toppan.co.jp/news/2015/03/newsrelease150303_3.html)し、2015年3月に開催された「リテールテックJAPAN2015」に出展した。2017年の実用化を目指す。電子ペーパーとプラスチック電子回路を用いた、この電子棚札は一部がカラー表示されるようにしてあり、商品をアピールしやすくしている。

電子ペーパーディスプレイによる商品棚表示の図
[図5] 電子ペーパーディスプレイによる商品棚表示 出典:凸版印刷ホームページ

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