No.009 特集:日本の宇宙開発
連載03 実用期を迎えるフレキシブルエレクトロニクス
Series Report

R&Dレベルでは衣服や皮膚に装着も

研究開発レベルだと、フレキシブルエレクトロニクスに取り組んでいる大学や研究所は山のようにある。例えば東京大学の染谷隆夫教授は、さまざまなフレキシブルデバイスを試作開発している。皮膚の上から紙のように薄いデバイスを巻き付け、生体情報を取得するセンサ端末を開発したり(図6)、伸縮自由な高分子フィルム上に有機トランジスタのアレイ(配列)を構成したり、厚さが1.2μmしかない極薄の高分子フィルム上にICを形成したりするなど、積極的にフレキシブルデバイスを試作、開発している。

身に着けていても装着感を感じさせないセンサを並べた図
[図6] 身に着けていても装着感を感じさせないセンサを並べた
出典:東京大学 染谷隆夫教授

海外でも例えばオランダの研究開発機関Holst Centreでは、応用志向の開発を行っており、フレキシブル端末を試作するだけではなく、スマートフォンやデジカメの充電電源となるソーラー電源をTシャツに縫い込んだり(図7)、フレキシブルな有機ELを曲線状のクルマに取り付けるなど、実際の応用に使える形の開発を進めている。

衣服に縫い込んだHolst Centreのソーラー電源の図
[図7] 衣服に縫い込んだHolst Centreのソーラー電源
曲げられる有機EL照明の図
[図8] 曲げられる有機EL照明 オランダの研究所Holst Centreが開発

Holst Centreでは、フレキシブルエレクトロニクスは、研究テーマの一つになっており、曲げられる有機EL照明も試作している(図8)。これは未来のクルマなど曲線的な形状のインテリア、あるいはエクステリアに取り付けるような用途を想定している。

以上、フレキシブルエレクトロニクスの具体例を見てきたが、今はまさに、研究から商品化へと向かっている黎明期といえる。商品化には、大学や研究所が具体的なデモや試作の開発を増やしたり、企業とのライセンスパートナーシップを構築したりすることなどが必要になってくる。新しいビジネスモデルを考える必要も出てくるだろう。次回は、9月末に開かれるフレキシブルエレクトロニクスの会議から将来方向を示唆する動きを探っていく。

[ 参考資料 ]

*1
電子インク
丸い微粒子の球体内に白と黒の粒を入れておき、電圧をかけることで白か黒を表面に引き寄せて白・黒を表現する技術。アマゾンの電子ブック「キンドル」の表示ディスプレイに使われている。
*2
ロール・ツー・ロール製造技術
長くて薄いポリマーフィルムを、トイレットペーパーのように巻いたロール(巻き取りの束)から伸ばし、プロセス処理した後に、空のロールの芯に巻き付けて回収する方式の製造技術。生産性が良い。

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

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