No.009 特集:日本の宇宙開発
連載03 実用期を迎えるフレキシブルエレクトロニクス
Series Report

第2回
からだや曲線を利用する新たな製品

 

  • 2015.10.09
  • 文/津田 建二

フレキシブルエレクトロニクスは、ウェアラブル端末の登場により、実用化を目指す開発へと移った。かつては、「あったらいいな」、「柔らかいプラスチック回路でこんなことができる」という研究が多く、実用化からはほど遠かった。ところが、最近は実用化を念頭に入れた発表が多い。ここでは、最近発表された具体的な製品を紹介する。

フレキシブルエレクトロニクスは、素材が柔らかく、実装する装置の形に合わせて曲げられることが最大のメリットである。それを実現するための材料が有機のプラスチックであり、さまざまな材料に配線や電極を印刷する、さらにはトランジスタさえもプラスチックで作る、という技術分野も形成されてきた。ところが従来の結晶シリコンと比べ、プラスチックのトランジスタや回路は、いつまでたっても性能が一向に良くならない。原理的に良くなる見込みもない。そこで、電子回路を従来のプリント回路技術や回路基板などで作り、フレキシブル端末を実現しようとする考えが、最近の海外におけるフレキシブルエレクトロニクスの潮流になっている。

有機ELを使った曲がるテレビ

フレキシブルエレクトロニクスを使った端末として、有機EL薄膜を使ったディスプレイとそれを組み込んだ広角状のテレビが最初に登場した。臨場感が増すというふれこみで、韓国のLG電子が積極的に有機ELテレビを商品化しているが、高価なためそれほど売れていないようだ。テレビのスクリーンをそもそも丸める必要はあるのか、という声も聞かれ、フレキシブルなディスプレイは試作・開発段階では注目されたが、ビジネスとしてはこれまでのところ成功していない。元々、有機ELディスプレイは厚さ1mm以下にすることが可能で、プラスチック基板に形成することが多く、曲げられるディスプレイになりうる。

LGの曲線テレビの図
[図1] LGの曲線テレビ

しかし、現在主流の液晶と比べて、価格が極めて高い。2007年に世界で初めての有機ELテレビをソニーが商品化したが、わずか11インチの大きさで19万円という高価格なテレビになり、結局生産を断念した。その後、韓国のサムスンも2013年に55インチで曲面スクリーンの有機ELテレビを売りだしたが、6000ドル(当時約59万円)と高価なため売れず撤退。現在有機ELテレビは韓国のLGだけが商品化しているだけにとどまっている。今年の7月30日、LGは4Kの高解像度で65インチの曲面型有機ELテレビを発表、8月7日に発売したが、価格は100万円を想定している。6月に発表した55インチの曲面型有機ELテレビは40万円に下がったが、液晶の14万円~19万円と比べるとまだ高い。液晶は常に価格が下がり続けているため、有機ELは、いまだに液晶テレビに勝負できる価格まで下げられない。

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