周辺環境に応じた自律制御が可能に
その後、自律制御の対象となるクルマの機能と利用シーンをさらに拡大させ、自動運転に大きく近づいた二つのシステムが実用化された。
一つは、2010年に導入が始まった「衝突予知緊急ブレーキシステム」である。障害物や前走車の接近を検知して、自動的にブレーキを掛けて衝突を防ぐものだ。レーダーやカメラなどで障害物を検知し、ESCでエンジンやブレーキを制御して衝突を回避する。このシステムは、道路状況や交通状況を問わず機能する必要がある。障害物となるモノの位置と速度を認識する機能、走行速度を問わず危険を回避できるリアルタイム性、昼間でも夜間でも効果を発揮できる汎用性が求められる。
もう一つは、2012年に導入された「車線維持支援システム」である。カメラで取り込んだ映像の中から車線を検知し、両脇の車線までの距離が縮まり過ぎた場合、自動的に反対方向にハンドルを切ってドライバーの注意を促す。ただし、車線変更のように意図的に車線を越えるシーンもあるため、自律制御よりもドライバーの操作を優先する。こうしたドライバー操作優先の制御指針は、自動運転システムを作る上での基本的な考え方になっている。
走行シーンを限定して自動運転が実用化
道路状況や交通状況が多様かつ激しく変化する市街地で適用できる自動運転システムの実現には、超えるべき技術的なハードルが高く、かつ多い。このため、より単純な環境把握と判断・制御で対応できるシーンに限定した自動運転から実用化していく。
2015年中には、状況に応じて自動的に加減速とハンドル操作を行う「渋滞運転支援システム」の実用化が国産車でも始まりそうだ。メルセデスベンツのCクラス車にはすでにこの機能が搭載され、ドップラーレーダーを使い、アクセルを離しても前方のクルマと常に一定の距離を保ち自動的に走行する。ついに、エンジン、ブレーキ、ハンドルの三つを自律制御する時代に本格的に突入する。実用化の当初は、高速道路内での渋滞に限定するが、段階的に、より幅広い速度範囲、より複雑な走行状況にも対応できるように進化していく見込みだ。
2016年には、「自動駐車支援システム」の実用化が予定されている。ハンドルとブレーキを自動的に操作し、エンジンとギアを適切に制御して、指定した駐車スペースまで自動運転する。そして、駐車位置に着いたら、自動的にパーキングブレーキを掛け、エンジンを停止させる。
より複雑なシーンでの自律制御に挑む取り組みも進んでいる。例えば、車線維持支援システムを発展させたシステムとして、「自動車線変更システム」がある。交差点や高速道路への侵入を支援するものだ。この実現は、センサによる接近車両の検知、地図情報と衛星を使った正確な位置情報の取得、車線や路側構造物などの目印の正確な検知が前提となる。これらを基に、高度な3次元グラッフィックス技術を駆使して、周辺環境を写し取ったバーチャル地図「ダイナミックナビゲーションマップ」をリアルタイムで作り、それを的確な自律制御に活用しようとしている。こうした技術が、自動運転システムの根幹の部分を占めることになりそうだ。
無駄な信号待ちをなくす
ここからは、道路インフラや周囲のクルマなどから無線通信を介して得た情報を利用することで、自動運転システムの利用の幅がどのように広がるのか紹介する。
例えば、前走車が急ブレーキを掛けたり、急加速したりした場合を考えてみよう。見通しのよい道ならば、ADASで安全に対処できるかもしれない。しかし、見通しの悪い交差点などでは、クルマに搭載したセンサだけでは状況を把握できない。道路上のクルマが次にどのような動きをするのか互いに知らせ合うことで、交差点や複雑な道路状況の中でも安全に運転できるようになる。
また、車両が信号機に電波を送ることで、交通量に応じた信号機の切り替えも可能になる。周りにクルマが全く走っていないのに、赤信号をじっと待つような状況はなくなる。さらに、交通管制センターが各車の動きや状況を集め、交通状況の変化を予測し、これをクルマにフィードバックすることで、交通状況の変化を踏まえた最速のルートで目的地に到着できるようになる。