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外部から自在にコントロールできる「能動カテーテル」
──能動カテーテルとはどのような器具なのでしょう?
心臓の検査や治療を行うためには、患者の腿からカテーテルを挿入して心臓まで送り、ワイヤーなどを通す必要があります。従来のカテーテルだと、曲がりくねった血管に挿入するのは困難ですし、強引に挿入すると血管を傷つけてしまいます。
私たちが開発した能動カテーテルは形状記憶合金を使っており、外部からの通電量に応じてカテーテルの曲がり具合を制御することができるため、これまで不可能だった検査や治療を可能にします。
こうした医療器具は、原理的に動くだけではダメ。確実に動作し、安全で、安く作れないと医療器具として失格です。
例えば、能動カテーテルだと、全体を樹脂でコーティングしておき、一部の樹脂だけをレーザーではぎ取ります。これをメッキ液に入れると、はぎ取った部分にだけメッキされ、そこだけ電気的に接続されるようになります。また、超弾性合金でできた管をレーザーで加工しておき、シリコンゴムのチューブをかぶせて吸引します。すると先のチューブが閉じてぐにゃりと曲り、造影剤などを流し込むための管としても使えるようになります。こうした手法を使うことで、細かな配線や加工を逐一行うより低コストで作ることができるのです。
──現場での使いやすさや、製造コストも考えた上で開発していく必要があるんですね。
このほか、低侵襲医療用として「前方視超音波イメージャ」や「光スキャナ内視鏡」などを開発しています。
一般的な内視鏡は光を使って対象を見ますから、胃や肺には使えますが、血液の入った血管内を見ることはできません。フラッシングといって、血管中の血液を水で追い出すという手法はありますが、いちいちこれを行うのは大変です。そこで、超音波で見る「前方視超音波イメージャ」を作りました。カテーテルから前方に超音波を発して、反射の様子で血管を調べます。現在でもカテーテルから横に超音波を発して血管の断面を観察する装置は使われていますが、前方視超音波イメージャはカテーテルを精密に操作したり詰まり具合を診断するのに役立つでしょう。
一方の「光スキャナ内視鏡」は診察と治療の両方を同時に行えないかと考えて開発したものです。スキャナで撮影してガンなどが見つかったら、その箇所にカーソルを当てます。すると、画像認識技術によって、その箇所がロックオンされ、そこに治療用のレーザーを打ち込むという仕組みです。人間の体は呼吸などの活動によって常に動いていますから、観察していざそこを治療しようとしても、関係ないところに穴を空けてしまうことがあり得ます。現代のミサイルは、的を画像認識でロックオンして追いかけるようになっていますが、あれと同じような原理です。
飛行機の中で病人が出た場合、医者がこうした手術道具を持っていれば、カテーテル手術ができるようになるかもしれませんね。
──5年くらい前のエレクトロニクス系記事には、MEMSを使った医療系デバイスが2012年頃に数多く実用化されているという予測が書かれていました。こうした予測ほどには、まだMEMS医療デバイスは使われていないように思いますが、いかがでしょうか?
そうですね。MEMSについても医療への応用についても、技術的な面ではかなり進化していると思います。しかし、日本の場合は、研究開発、実用化の仕組みがうまく回っていない印象を受けます。
国が音頭を取って予算を付け、こちらの方向に行けというだけだと、こうした研究はなかなか進みません。研究室で作ったデバイスに企業が興味を持ち、臨床で何度も治験して改良を重ねる。こうしたサイクルを回す必要があります。東北大学でも、そうした仕組みを作ろうと一生懸命頑張っているところです。