No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
Topics
テクノロジー

ダ・ヴィンチを用いたロボット手術のメリットは多い。まずは、前述したように、低侵襲であるため、回復が早く、早期退院が可能である。デジタルズーム機能を搭載した鮮明な3D画像を見ながら、より精密な手術ができるのも利点だ。また、ダ・ヴィンチのアームは、人の手首以上の可動域を持ち、従来の内視鏡手術や腹腔鏡手術ではできなかった複雑な動きが可能なため、スムーズかつ安全に手術を行うことができる。さらに、医師が実際に手を動かす速度よりも、ゆっくりとした操作に変換でき、手ぶれを防ぐ機能も備えているため、微細器官の剥離や縫合などの精度が格段に向上する。

すでに、ロボット手術先進国であるアメリカでは、2011年9月末時点で1500台ものダ・ヴィンチが導入されており、心臓外科や婦人科などいろいろな手術で使われている。中でも、前立腺がん全摘手術についてはそのほとんどがロボットによって行われている。尿道括約筋や神経を傷つけずに、前立腺を摘出するには、精密な動きができるロボットが有利なのだ。

しかし、日本では、ロボット手術に健康保険が適用されず、高額な医療費がかかることもあり、ダ・ヴィンチの導入台数は、2012年4月時点で40台にとどまっているのが現状だ。2012年4月より、前立腺がん全摘手術にのみ保険の適用が認められたが、それ以外の手術については、まだ認められていない。また、ロボットを使いこなすには、医師の習熟が必要であり、ロボット手術に関する指導やサポートを行う体制を確立することも必要になるだろう。

血管の可視化や器具位置の表示を行う
医療用ナビゲーションシステム

最新医療技術としては、医療用ナビゲーションシステムにも注目が集まっている。医療用ナビゲーションシステムとは、患者の血管や腫瘍の位置を映像によって知らせたり、術野における器具位置を表示するなど、医師をアシストするシステムだ。その中で、血管を可視化するナビゲーションシステムの代表として、Christie Medical Holdings社の「VeinViewer」があげられる。VeinViewerは、皮下の血管をその皮膚上にリアルタイムに投影することができる装置であり、静脈注射や穿刺などの処置を強力にサポートしてくれる。血管位置の確認および血管確保は、手術室やICU、救命救急センター、検査室など、院内のさまざまな医療現場で必要とされるが、VeinViewerの利用によって、静脈ラインの確保ミスを減らすことに大きく貢献する。

血管可視化装置「VeinViewer」の写真
[写真] 血管可視化装置「VeinViewer」。青色の部分が本体で、患者の腕などに向けることで、皮膚上に血管を投影できる
VeinViewerの利用中の様子の写真
[写真] VeinViewerの利用中の様子。皮膚の下にある静脈の位置がはっきりわかるので、静脈注射などのミスを防げる

また、医療用ナビゲーションシステムの事例として、手術中のナビゲーションシステムがある。これは、手術前に撮影した患部の画像上に、手術中の器具を表示させ、術中の器具の位置確認を行う画像支援システムである。これにより、医師は3次元的な術野を把握しながら手術を進めることができ、より安全で的確な作業が可能になるのだ。中でも脳神経外科の手術は、ナビゲーションシステムに適した分野であり、欧米ではもちろん、日本でも多くの病院がシステムを導入し、大きな成果を上げているという。

アメリカのMedtronic社は、このシステムを早くから手がけており、最新の「StealthStation S7」は、同社の7世代目の製品となる。StealthStation S7は、24インチの大型モニターを備え、器具のトラッキング(位置検出)方式として、赤外線カメラを利用した光学式と磁場式を選択できることが特徴だ。

Medtronic社の最新手術用ナビゲーションシステム「StealthStation S7」の写真
[写真] Medtronic社の最新手術用ナビゲーションシステム「StealthStation S7」

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.