No.003 最先端テクノロジーがもたらす健康の未来 ”メディカル・ヘルスケア”
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陽子線と炭素イオン線の両方の治療が可能な
兵庫県立粒子線医療センター

粒子線治療は、副作用がほとんどなく、患者への負担も少ない、まさに理想的ながん治療法なのだが、治療装置が大がかりになってしまうことが欠点としてある。

粒子線治療装置は、イオンビーム(粒子線)を予備加速する入射系、ビームを治療に適したエネルギーまで加速するシンクロトロン、加速されたビームを照射室に導く高エネルギービーム輸送系、供給されたビームを病巣部に照射する照射系、さらにそれらを統括する制御系の大きく5つの装置から構成されている。シンクロトロンは、高エネルギー物理学の実験に使われていた装置であり、世界最大のものは、ヒッグス粒子(素粒子物理学の標準理論の中で唯一見つかっていなかった粒子)の発見で話題となったCERNのLHCである。LHCは、直径約10km近くにもなる超巨大な装置だが、粒子線治療に使われているシンクロトロンは直径20〜40m程度である。

現時点で、稼働している粒子線治療施設は国内に9カ所あるが、その中でも、唯一、陽子線と炭素イオン線の両方の治療が可能な施設が兵庫県にある「兵庫県立粒子線医療センター」である。同センターは、2001年4月1日に病院が開設され、2003年4月1日に陽子線の一般診療を開始、2005年3月17日に炭素イオン線の一般診療を開始した。敷地面積は、5.9ヘクタールにも及び、甲子園球場の約1.5倍になる。同センターは、播磨科学公園都市の中にあり、自然の緑に囲まれた、広々として気持ちのよい建物である。

これまでの治療患者数は、累積で約5150人(2012年8月末現在)で、先進医療としては全国トップであり、粒子線治療の進化・発展に大きく貢献している施設でもある。技術の進化により、適応疾患も拡大しているが、昨年度の受診者をがんの部位別に集計すると、最も多かったのは、前立腺の約28%で、以下、肝臓が20%、膵臓が12%、頭頸部が11%という順になっている。がんの部位や状態によって、陽子線が適しているか、炭素イオン線が適しているかが異なってくるため、ベストの方法を選択するという。

兵庫県立粒子線医療センターの写真
[写真] 播磨科学公園都市の中にあり、自然の緑に囲まれた、兵庫県立粒子線医療センター
兵庫県立粒子線医療センターの航空写真
[写真] 兵庫県立粒子線医療センターの航空写真

粒子線治療装置については、同センター事務部長の亀井了氏に、模型をもとに説明をいただいた。まず、中央手前の部屋が、治療に使う陽子や炭素イオンを生成するイオン源室である。ここで生成されたイオンは、模型で青色に見える線形加速器によって、予備加速が行われる。ここまでが入射系だ。次に、イオンビームが円形のシンクロトロン(模型写真では右奥になる)に入り、治療に適したエネルギーまで加速される。シンクロトロンの周囲には、電磁石が配置されており、その磁場によって粒子線を曲げて周回させ、高周波加速空洞によって加速する。加速されたビームは、左の照射室に導かれる。治療に使われる照射室は全部で5つあり、そのうち2つは、回転ガントリーによって任意の方向からの粒子線照射が可能である(模型写真の左にある2つのオレンジ色の装置が回転ガントリー)。

兵庫県立粒子線医療センターの粒子線治療装置の模型の写真
[写真] 兵庫県立粒子線医療センターの粒子線治療装置の模型

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