No.007 ”進化するモビリティ”
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運搬や貯蔵が困難な水素

タンク内の水素と空気中の酸素を反応させた電気で駆動し、排出されるのは水だけというFCVは究極のエコカーと言われるが、一番のネックとなっているのは水素だ。

"太陽光や風力などの再生可能エネルギーによって生み出した電力を利用して、水を電気分解。発生した水素を貯蔵・運搬して、発電所や自動車の燃料にする"。クリーンな水素社会はこのようなイメージで語られることが多いが、ここ数年あまり話題に上らなくなってきている。

それは、エネルギーサイクルとしての大きな課題を解決できる目処が立っていなかったからだ。水素は、貯蔵や運搬が難しいという根本的な課題を抱えているのだ。水素は体積が非常に大きくなるため、圧力をかけて体積を小さくするか、温度を下げ液体にして運ぶ必要がある。しかし、圧力をかけるのも液化するのも多大なコストがかかるし、可燃性であるため取り扱いにも注意を要する。

水素を低コストで常温・常圧で運搬・貯蔵するために、これまでにもさまざまな研究開発が行われてきている。代表的なものとしては、水素吸蔵合金や有機ケミカルハイドライド法がある。前者は水素を取り込む性質のある合金であり、ニッケル水素電池も水素吸蔵合金の応用の1つだ。後者は、水素原子を含む化合物を作って液体の状態で運搬・貯蔵を行い、必要に応じて「脱水素化」の処理を行って水素を取り出す。

水素吸蔵合金は重く、水素の吸着・放出を繰り返すと脆くなるといった欠点がある。有機ケミカルハイドライド法については、水素を含む化合物を作ること自体は昔から広く行われているが、低コストで大量に脱水素化することができていなかった。

ところが2013年6月、プラントエンジニアリング企業の千代田化工建設が、有機ケミカルハイドライド法による「大規模水素貯蔵・輸送システム」の実証実験に成功したことを発表し注目を集めた。

同社の方法とは、工業用途で広く使われているトルエンと水素を反応させて、メチルシクロヘキサン(MCH)という物質を作り、常温・常圧での運搬・貯蔵を行うというもの。MCHにすることで、気体の水素に比べて体積比で1/500になる。同社は、MCHを「SPERA水素」と呼んでいる。SPERAはラテン語で「希望せよ」という意味だ。

この手法のポイントは、MCHの脱水素化を効率的に行えるSPERA触媒を開発したことにある。従来の脱水素化触媒は2〜3日程度の寿命しかなかったが、SPERA触媒の寿命は連続使用で1年以上。白金の粒子を1ナノメートル(10億分の1メートル)にまで細かくし、アルミナ(酸化アルミニウム)の上に均一に分散させたものだ。白金は希少な金属資源だが、SPERA触媒での使用量はごくわずかで、しかも交換の度に回収され再利用されるという。

千代田化工建設が神奈川県の子安に建設したデモプラントの写真
[写真] 千代田化工建設が神奈川県の子安に建設したデモプラント。(写真提供:千代田化工建設(株))

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