No.007 ”進化するモビリティ”
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車から社会を変える次世代のエネルギー

 

  • 2014.11.14
  • 文/山路 達也

排気ガスを出さない電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)などの次世代自動車は、環境対策の切り札と言われている。いずれもインフラの整備が必要だが、EVはカーシェアリングなどで少しずつ普及し始めた。一方、久しく話題に上らなかったFCVも、「あるイノベーション」をきっかけに、改めて注目を集めつつある。動き始めた水素社会への取り組みを中心に、車社会のエネルギー事情の行方を展望する。

環境と資源量以外は、理想的なガソリンエンジン車

19世紀に実用化された自動車は、200年近くの歳月を経て、高度な輸送機関へと進化していった。歩くようなスピードから時速100km以上の高速移動が可能になり、GPSを利用したカーナビ、さらには自動運転が可能なロボットカーも視野に入ってきた。

しかし、「燃料」に目を向けると、基本的な原理はそれほど変わってはいない。まず、自動車燃料に関する状況を整理しておこう。

現在主流の燃料は、19世紀末以来変わっておらず、石油から精製したガソリンや軽油だ。石油は採掘、精製が容易なため低コストで、運搬や貯蔵も行いやすい理想的な燃料である。問題は、石油が枯渇する可能性と、CO₂の排出量が多いこと。石油が枯渇するかどうかについては肯定・否定含めて諸説あり、最近ではシェールオイルを始めとする非在来型石油資源の開発も進んでいる。だが2014年に入って、複数の総合商社がシェールガス開発で損失・減益を計上するなど事業リスクの大きさが露見し、今後の展開には不透明さが残る。また、発展途上国で自動車の需要が急増すれば、予想よりも速く枯渇する可能性もある。

こうした状況を受けて、自動車メーカーもエコを売り物にした自動車を前面に出してくるようになった。

エコカーとして普及が進んでいるのがガソリンエンジンと電気モーターの両方を搭載したハイブリッドカーで、特に日本では販売台数ランキングでもハイブリッドカーが上位に来る。

また、石油を燃料にした自動車でも技術革新は続いており、ヨーロッパではクリーンディーゼル車が浸透している。かつてディーゼル車は黒煙やNOx(窒素酸化物)を大量に排出するとして排ガス規制の対象になったが、黒煙やNOxを処理する技術が進んだことで、低燃費のエコカーとして認知されるようになった。日本ではディーゼル車のイメージが悪かったこともあってクリーンディーゼル車は普及していなかったが、2014年10月からマツダが新型「デミオ」でクリーンディーゼルエンジンを採用。また同社は2016年にはディーゼルエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッド車を発売する方針だ。

ハイブリッド車にしてもクリーンディーゼル車にしても低燃費ではあるものの、石油燃料は必要不可欠である。また、ハイブリッド車では従来型エンジンとモーターの両方、クリーンディーゼル車でもNOxを処理する機構を搭載する必要があるため、構造が複雑になり、車体価格をあまり安くすることができない。ランニングコストは抑えられても、トータルのコストとしては必ずしも安いとは限らないのだ。結局のところ、多数派の自動車ユーザーが優先するのは経済性なのである。

2014年モデルのマツダ「デミオ」の写真
[写真] 2014年モデルのマツダ「デミオ」には、クリーンディーゼルモデルも用意される。(写真提供:マツダ(株))

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