No.007 ”進化するモビリティ”
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EVは近距離で有望、FCVの普及は2030年以降か

水素が、FCVの燃料として使われるようになるには、エネルギーサプライチェーンがきちんと回り、大量需要が生まれてからになるが、MCHはこのFCVの利便性も大きく向上させる可能性がある。

例えば、水素ステーションにはMCHの形で貯蔵しておいて、FCVに補給する時点で脱水素化するのだ。こうすれば、水素を気体のまま貯蔵するより、安全かつ低コストで貯蔵できることになる。

現在のFCVに水素を補給するには700気圧に圧縮する必要があり、そのためのコストが輸送コスト並みかそれ以上にかかってしまう。また、このように高圧に圧縮した水素を輸送・貯蔵するコストも馬鹿にならないが、ステーションに貯蔵したMCHを、その場で脱水素化できれば、改善できる可能性がある。もしくは、FCVの車体自体に脱水素化装置を搭載し、燃料補給もMCHのまま行うことが出来れば、更にSPERA水素の本領が発揮されるかもしれない。この場合、脱水素化で水素を取り出すとFCV内のタンクにはトルエンが残るので、ステーションでMCHとトルエンを入れ替えることになる。

2014年6月に経済産業省が発表した「水素・燃料電池戦略ロードマップ」では、水素社会実現に向けた取り組みの加速をこれまでよりも強く打ち出しており、2025年頃にはハイブリッド車と同等価格のFCVが発売されることが記されている。

次世代自動車のインフラ整備には時間がかかるため、今後10年、20年の間はガソリンやディーゼル、そしてハイブリッド車が主流のままだろう。しかし、2020年の東京オリンピックまでにカーシェアリングを中心にEVの市場が広がる可能性はある。そして、2020年頃までに水素エネルギーサプライチェーンの実証が順調に進むのであれば、2030年以降にFCVが普及し始めるというシナリオも現実味はありそうだ。

Writer

山路 達也(やまじ たつや)

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーのライター/エディターとして独立。IT、科学、環境分野で精力的に取材・執筆活動を行っている。
著書に『Googleの72時間』(共著)、『新しい超伝導入門』、『インクジェット時代がきた』(共著)、『日本発!世界を変えるエコ技術』、『弾言』(共著)など。
Twitterアカウントは@Tats_y

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