No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
Scientist Interview

── クライアントの制限に縛られず、自分たちのアイデンティティーを強化するためのイベントでもありますね。

そうですね。クライアントも、われわれにアイデンティティーを求めているので、利害は一致しています。それに、多くの場合、クライアントもコラボレーター(共同制作者)であると言えます。モーメント・ファクトリーはサービス会社であると自覚することは重要で、そうすることで謙虚になり、クリエイティブでオープンになる。そして、独りよがりな創造活動を行うといった閉鎖性から解放されるのです。

── モーメント・ファクトリーは、「We Do It in Public(いつもパブリックで実行する)」をモットーにしていますが、これはどういう意味ですか。

これは、まさにわれわれのDNAです。私と共同創業者のサクチン・ベセットは、もともとVJ(ビデオ・ジョッキー)の出身で、パーティーのオーガナイザーでした。VJというのは、パーティーの際にライブなプロジェクション・アートを見せる演出家です。モーメント・ファクトリーの最初のモットーが、「Music for the Eyes(目に楽しい音楽)」だったのは、そのためです。今は、パーティーを離れて、より大きな環境を対象にすることが多くなったので、「We Do It in Public」にモットーを改めました。ただ、この修正は自然な流れであって、ビジネス戦略のようなものではありません。ですから、やっていることの核心には、パーティーを開いてお祭りムードを作り出し、集まった人々を楽しませる、という目的が変わらずあるのです。われわれは現実世界に人々が集まることに意味があると考え、「ソーシャル・エンターテインメント」とか「ヒューマン・エンターテインメント」と呼ぶものをクリエイトしている。今はようやく理解してもらえるようになりましたが、当初はその意味をわかってもらうのに苦労しました。

── モーメント・ファクトリーには、現在スタッフが約300人いるとのことですが、新しい人材を雇う際には、どんなことを基準にしていますか。

専門分野の知識と才能、経験はもちろん重要ですが、性格も重視します。面接をするときは、この人は社会性の点で面白い人物かを見ています。ただ、先にも言ったように、社内の多様性も大切です。モントリオールは非常にマルチ・カルチャーな都市で、世界そのものと言えますが、モーメント・ファクトリーもそういう存在でありたいと考えています。そのため、今でもスタッフの半分は、(モントリオールにある)ケベック州以外の出身者で占められています。

── 「社会性の点で面白い人物」とは、チームワークができるということですか。

周りに向けてオープンであること、そして謙虚さも重要です。モーメント・ファクトリーでは、エゴの強いスター気取りの人間は要りません。話を聞いてみると、プロジェクトの手柄を独り占めしたがるような人物がよくいます。しかし、ここでは、組織が水平であることが重要で、謙虚で柔軟性に富んだ人間によるチームワークが必要とされているのです。その一方で、変人やオタクといった人々も歓迎です。彼らは一見すると非社会的であっても、実際に一緒に仕事をしてみると、意外に柔軟な人物だったりする。ですから社会性の点で面白いというのは、社交的という意味ではありません。ひどく内向的でも、チーム内で素晴らしい働きをする人もたくさんいますから。

モーメント・ファクトリーのオフィスは、元テキスタイル工場を改造した場所
[図5] モーメント・ファクトリーのオフィスは、元テキスタイル工場を改造した場所

── 日本での『食神さまの不思議なレストラン展』への参加は、どのような経緯で実現されたのでしょうか。

あれは非常に恵まれた機会でした。声をかけてくれたのは、友人であるソニー・ミュージックエンタテインメントの遠藤陽市氏(コーポレートビジネスマーケティンググループ・ゼネラルマネージャー)です。私にとって日本は、ティーンエイジャーの頃はアニメや忍者映画を、そして大人になってからは寿司を通して、インスピレーションの源でした。『食神さまの不思議なレストラン展』は日本での初めての仕事であり、和食をデジタル・アートで表現するというユニークなものです。そこで、できるだけ早く展開できる、4つシンプルなインスタレーションを制作しました。和食は、洋食と比べて完璧主義に貫かれており、日本の文化的な構造を反映したものだと思います。われわれは制作しながらも、たくさんのインスピレーションを得ました。

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