No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
Scientist Interview

ソフトウェアを独自開発し、ハードウェアを改造する:モーメント・ファクトリーの発想と創造力

2017.07.31

ドミニク・オーデット
(モーメント・ファクトリー創業者、
チーフ・イノベーション・オフィサー)

テクノロジーは今、人がその中に入って「イマーシブな(没入感を伴う)」体験ができるものになっている。人の操作に呼応するインタラクションや、人の動きを追跡するトラッキング、あるいはセンサー、赤外線など、こうした体験のためにさまざまな技術が動員されるようになっている。そうした体験の作り手として世界でも注目を集めているのが、モーメント・ファクトリーだ。モントリオールを本拠とし、世界の数都市に活動拠点を持つモーメント・ファクトリーは、単なるスクリーン上で展開されるコンテンツではなく、人がそこに関わり、またそこに集まった人々同士がつながりを感じられるような共有体験を目的とし、人類の本質にも通じる体験のあり方を、デジタル時代に最大のクリエイティビティ(創造性)で実現しようとする集団である。

(インタビュー・文/瀧口 範子 写真/Nadia Zheng)

── モーメント・ファクトリーは、日本で2017年1月に『食神さまの不思議なレストラン展*1』で、日本食をテーマにした不思議な体験型のインタラクティブ空間を作り、話題を呼びました。あなたがたはこうした展覧会に限らず、コンサート、テーマパーク、商業空間、都市空間などを利用した体験型のデジタル・アート制作で世界的に活動していますが、これまでにない驚きや感動をプロデュースするために、どのようにアイデアを生み、どういったプロセスを経て最終作品を作り出しているのでしょうか。

創造のプロセスは、プロジェクトのタイプによって異なります。しかし、基本的な流れは同じです。まず、クライアントのブリーフィング(意図説明)をプロデューサーとクリエイティブ・ディレクターが聞き、その後、クライアントが(モーメント・ファクトリーの拠点であるカナダの)モントリオールにやって来て、われわれのチームとミーティングをします。その際、チームのメンバーが学際的であることが重要です。建築家、グラフィックデザイナー、照明デザイナー、ソフトウェア開発者など、実に幅広い専門分野のスタッフが集まり、私が「レフトフィールド(主流から逸れた)アイデア」と呼ぶものを求めます。つまり、専門分野の異なる複数の視点からアプローチをすることにより、挑戦的なアイデアを探すのです。これは、モーメント・ファクトリーの創造プロセスの核心と言える部分でしょう。そもそもモーメント・ファクトリーには、非常に多様なバックグラウンドの持ち主が集まっており、スタッフの出身国、人種、文化も一様ではなく、男女比も半々になるように努めています。

[動画1] モーメント・ファクトリー社紹介ムービー
CREDIT: Moment Factory

── そのミーティングでは、いろいろなアイデアを出し合うことが中心になりますか。

そうです。議論をリードするのはクリエイティブ・ディレクターで、様々なアイデアを広く捉えるようにします。その後、コンセプトを構築する段階に入りますが、その際にはクリエイティブ・ディレクターとマルチメディア・ディレクターが一緒になって、社内のあらゆる部署の垣根を取り払って構想を固めます。その次の工程はデザインですが、ここで行われるのがプロトタイピング(試作)です。

── それは、製品のデザインやソフトウェア開発で導入されている、ラピッド・プロトタイピング(試作を迅速に繰り返し制作すること)のようなものでしょうか。

その通りです。ソフトウェア開発で採用されるアジャイル方式(小規模な開発を小刻みに繰り返して、リスクを最小限にするソフトウェア開発の方法)を用いて、ともかく迅速にプログラムを書き、その結果を確かめるのです。何かが足りなければすぐに足して、また結果を見る。そうしたことを何度か繰り返します。この工程で同時に進めるのが、物理的な実験です。そのためにわれわれはスタジオを持っており、ここでミニチュアの建築模型を使って、実際の光景を視覚化して効果を確認する。これもプロトタイピングのプロセスのひとつで、つまりデジタルとフィジカル(物理的)の両面でプロトタイピングを迅速に行うということです。そしてそこには、スタッフのすべての専門知識、すべてのテクノロジー、すべての材料が投入されていることは言うまでもありません。

社内に設けられたスタジオ映写用機器も独自に開発する
[図1] 社内に設けられたスタジオ(左)。映写用機器も独自に開発する(右)

[ 脚注 ]

*1
食神さまの不思議なレストラン展:
テレスコープマガジン今号の鈴木 智彦氏の「エキスパートインタビュー」でも取り上げている。
テレスコープマガジンNo. 14|Expert Interview 「デジタル技術の活用が熟れれば、イベントはもっと面白くなる」参照

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