No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載01 コネクテッドカーが本格稼働
Series Report

5G時代のクルマは世界とコラボ

クルマをもっと賢くして、事故を無くすためにさまざまな事例を定義し、調和を取りながら理想的なコネクテッドカーを追求していく。ここには、テクノロジーだけではなく、ビジネスモデルも開発し、市場へ出すまでの期間を短くする方法を研究することも含まれる。さらに、技術を共同で選択し、ロードマップを作成して、周波数割り当て要求を作ることも必要だ。これは、将来のコネクテッドカーを実用化するうえで必要な標準化や認証手順にも影響を及ぼす。また、つなげる手段としてのワイヤレス通信、セルラーネットワーク、セキュリティ、プライバシーの確立、認証、分散したクラウドアーキテクチャや技術的なプラットフォーム、プロトコルやデータ形式なども整備していかなければならない。もちろん実用化までの実験を通じて、インターオペラビリティも行う必要があるだろう。

第5世代の移動通信を推進する組織5GAAのメンバーは、当初の設立メンバーから急速に増加している。2017年4月13日時点で、フォード、ボーダフォン、チャイナモバイル、SAICモーター、AT&T、ジャガーランドローバー、NTTドコモ、サムスン、キーサイト・テクノロジー、ローデ&シュワルツ、ZTE、コンチネンタル、LG、ベライゾン、デンソー、ゲマルト、SKテレコム、ドイツテレコムなど、42社・団体がメンバーとなっている。

また5GAAは、通信に関わるさまざまな団体と提携してコネクテッドカーの普及を推進しており、セルラー通信ネットワークの世界的組織である3GPPにも加わった(図2)。さらに、アメリカの運輸省道路交通局(NHTSA:National Highway Traffic Safety Administration)とも、共同でルール作りを行っている。今年の2月には、ヨーロッパにおけるコネクテッドカーの組織であるEATA(European Automotive Telecom Alliance:欧州自動車通信連合)や、NGMN(Next Generation Mobile Networks:次世代モバイルネットワーク)アライアンスとも提携を始めた(参考資料1)。

5GAAと3GPPとの提携
[図2] 5GAAと3GPPとの提携
出典:5GAA

通信業界では5Gの実験が始まった

5Gを利用するコネクテッドカーの実験はこれから始まる。しかしその前に、行われる実験が正しいのか否かを決めるための測定器がなくてはテストできない。最近になってようやく、5G通信用のテスト装置が計測器メーカーから製品化されつつある。ヒューレット・パッカードをルーツに持つキーサイト・テクノロジーは、5G通信に使われる周波数のひとつである28GHzで、信号発生器と受信機をつなぎ合わせ、デジタル変調させた情報のデモを行っている。また、ソフトウエアベースの測定器メーカーのナショナルインスツルメンツは、多数の小型アンテナを利用する送信機と、さらに多くの小型アンテナを配置した受信機を使って、28GHzの無線電波を送受信できることを示した(図3)。

28GHzの無線を送受信した実験 送信機28GHzの無線を送受信した実験 受信機
[図3] 28GHzの無線を送受信した実験 送信機(右)から多数のアンテナで電波を発射し、受信機(左)の半球状のアンテナで受ける
協力:ナショナルインスツルメンツ

一方クルマ側からは、V2VやV2Xだけではなく、V2N(Vehicle to Network)というクラウドとの接続や、V2P(Vehicle to Pedestrian)という歩行者の検出や、死角をなくして事故を防ぐための試みが進行中である。これまではこうした実験も、無線LANの一種である802.11pという、データレートはそれほど速くないが700〜800mまで届くV2V用の規格を使って行ってきた。しかしこれからの時代は、802.11pとセルラーネットワークとの共存の時代を迎えるであろう。現状のセルラーネットワークは、3GからLTE、さらに5Gへと進化し始めている。クルマでの無線通信の利用は命に関わるだけに、慎重に進めなければならない。

5G時代は4Gと共存

では、5Gになると何がこれまでとは変わるのか。5G通信がこれまでの通信と違うのは、前世代の4Gと共存することだ。これまでは、アナログ規格の1Gからデジタルの2G、そして3Gへと、全て変調方式が異なるため、共存できなかった。4G時代になってもそれは同じで、VoLTE(Voice over LTE)技術がインフラに整備されることにより、LTEチップだけでデータと音声を処理するようになってきた。つまり4Gだけで済むようになり、もはや3Gは不要になっている。

ところが5Gは、最大10Gbpsとこれまでの数十倍もの速いデータレートであるため、高周波を使い周波数帯域を上げている。周波数が高くなると、距離による電波の減衰が著しくなるとともに、直進性が増し指向性が強まる。このため、従来の電波よりも到達距離が短くなり、電波を受け取れる角度も狭まってしまうのだ。図3の実験で見られるように、多数のアンテナを使うことで広い範囲の電波を受けられるようになる試みが行われているが、到達距離が短いという欠点は解決しようのないものである。

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