No.014 特集:テクノロジーとアートの融合
連載01 コネクテッドカーが本格稼働
Series Report

1ms以下のレイテンシで出来ること

最後に、5Gならではの、1ms以内のレイテンシ(時間遅れ)という制限について考察しよう。今のところ、大規模な計算が必要な場合は、データセンターなどの巨大コンピュータで演算するクラウドコンピューティングを使うことが多い。手元の端末やクルマのECUでは、どうしても演算パワーが不足する場合がある。iPhoneでの「ヘイ、シリ」という最初の一声で音声入力を受け付ける操作は、音声認識の演算をクラウドで行っている好例だ。

クルマを運転中に、前方に飛び出してきたものを発見して急ブレーキをかける場合、それが人であると認識する演算にかかる時間と、さらに制御部に伝えてブレーキをかける時間がリアルタイムといえるほど短ければ問題はない。しかし、認識するための演算に時間がかかりすぎるなら、それは全く使えないものになる。それが、5Gでクラウドを通して1ms以内に演算が終わり、ブレーキ動作も数十µs程度で行えるなら、人間の反応速度以上で動作が可能だ。そうなれば、クルマ側に高価なプロセッサを置く必要がなくなり、クルマを安く供給できるようになる。

また、クルマや人の姿を認識させるため、画像データをAI(人工知能)に読み込ませる場合は、クラウドのコンピュータに学習させる。しかし、その学習結果を用いて、クルマだ、人だ、と判断する場合には、それほどマシンパワーを必要としないため、従来はECUのような車載のコンピュータを使っていた。それが5Gの時代になり、1msというレイテンシ――すなわちクラウドで演算してもリアルタイムで答えが得られるなら、全ての演算をクラウドで行えるようになる。すると、クルマのECUは制御用のマイコンだけで十分となり、クルマの価格はそれほど上がらずに済む。

これに対して、世界トップの半導体メーカーであるインテルは逆の立場をとっている。かれらはクルマのECUをもっと磨き、演算リッチなCPU(コンピュータプロセッサ)を使うことで、クラウドを使わずに済むというアプローチをしているのだ。もちろん、単純にECUを高性能化すればクルマの価格は上昇してしまうため、仮想化技術の導入を進め、搭載するECUの数を減らすことで、価格バランスをとるよう努めていくとみられている。

いずれのアプローチにしても、性能や機能を上げながらコストを下げるというテクノロジーの開発が、コネクテッドカー、ひいては自動運転の普及を牽引していくことになるはずだ。

[ 参考資料 ]

1.
5GAAホームページ
http://5gaa.org/
2.
News、5GAAウェブサイト
Coexistence of C-V2X and 802.11p at 5.9 GHz
3.
テレスコープマガジンNo. 14|連載01 コネクテッドカーが本格始動
第1回:eCallサービスを機にクルマがワイヤレスでつながる時代に突入

Writer

津田 建二(つだ けんじ)

国際技術ジャーナリスト、技術アナリスト

現在、英文・和文のフリー技術ジャーナリスト。
30数年間、半導体産業を取材してきた経験を生かし、ブログ(newsandchips.com)や分析記事で半導体産業にさまざまな提案をしている。セミコンポータル(www.semiconportal.com)編集長を務めながら、マイナビニュースの連載「カーエレクトロニクス」のコラムニスト。

半導体デバイスの開発等に従事後、日経マグロウヒル社(現在日経BP社)にて「日経エレクトロニクス」の記者に。その後、「日経マイクロデバイス」、英文誌「Nikkei Electronics Asia」、「Electronic Business Japan」、「Design News Japan」、「Semiconductor International日本版」を相次いで創刊。2007年6月にフリーランスの国際技術ジャーナリストとして独立。書籍「メガトレンド 半導体2014-2023」(日経BP社刊)、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」、「欧州ファブレス半導体産業の真実」(共に日刊工業新聞社刊)、「グリーン半導体技術の最新動向と新ビジネス2011」(インプレス刊)など。

http://newsandchips.com/

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.