No.010 特集:2020年の通信・インフラ
連載01 人工知能の可能性、必要性、脅威
Series Report

人工知能先にありきで人の配置を考える

次は「管理」に関わる取り組みである。世界を代表する物流・小売り企業となったアマゾン社では、2014年から人工知能を搭載した自律型ロボット1万5000台を、米国の10カ所の倉庫で商品管理に利用している(図3)。これまでは、倉庫で働いているスタッフが商品の場所まで移動して、注文に応じた箱詰めをしていた。このロボットは、スタッフがいる場所まで商品を乗せた棚を自動的に運ぶ。これによって、人員数を1/3に減らしたのだという。このロボットは、売れ線の商品を乗せた棚をスタッフの近くに、それほど売れないものを遠くに置くといった作業効率を高める管理をして、迅速な配送を可能にしている。

アマゾン社の倉庫で利用されている人工知能を搭載した自律型ロボットの図
[図3] アマゾン社の倉庫で利用されている人工知能を搭載した自律型ロボット
出典:CNET News

このシステムの特徴的な点は、管理は人工知能が行っているが、箱詰めは人手で行っていることである。管理と箱詰めを比べた場合、管理の仕事の方が高度な作業であるように見える。しかし、実際に両方を人工知能やロボットで代替すると、箱詰めの方が圧倒的にコストが高くなる。ならば、箱詰めは人手でよいという発想だ。アマゾン社は、こうした業務の合理性に関して、とてもシビアな会社である。このシステムに限らず、商品選定、在庫管理、営業、販売といった知的な作業も、機械が得意ならば、全て機械が行う。しかし、どんなに価値が低いように見えても、人間の方が得意ならば、箱詰めのように人間が行う。作業の担い手を人間から機械に替えるのではなく、機械ではできない部分だけに人間のスタッフを使うという発想で会社のシステムが作られている。21世紀の勝ち組企業の業態はこうしたものだ。

アマゾン社の人工知能での管理能力は、どんどん進化している。同社は既に、消費者が注文を完了する前に予測出荷するシステムの技術についての特許を取得している。これは、購入する可能性が高いユーザーがいる配送先を予測して、注文を先回りして出荷を行い、配送の途中で出荷先が確定すると、そこへ商品を送る仕組みだ。購入の可能性は、オンラインストア上での挙動や購入履歴のパターン、アンケートなどの回答、地理的データ、ユーザーが登録した欲しいものリストといったデータを分析して予測する。これからの時代の管理職は、こうした先を見通す能力を持った人工知能が競争相手になる。

感情を通わすコミュニケーションを探求

最後は「おもてなし」に関わる取り組みだ。近年、アップルの「Siri」やマイクロソフトの「Cortana」のような、人工知能を応用した個人秘書機能が実用化している。実際に使っている人も多いと思われるが、会話の内容や応答が、時が経つにつれてどんどんこなれてきている。

人間と感情を通わせ対話することを目指して開発されている人工知能も出てきている。LINEビジネスコネクト(「LINE」が提供する企業むけのメッセージングサービス)上で公開されている会話ボット「りんな」やソフトバンクロボティクスの「Pepper」が、その代表例である。例えばPepperは、触覚、視覚、聴覚センサなどから周囲の状況を検知し、対話する相手の声や表情から喜怒哀楽の感情を読み取ることができる。

人工知能が人間の感情の動きを理解するために利用しているのが、「感情地図」と呼ぶ人間の感情をモデル化したものだ(図4)。例えば、視覚センサによる顔認識によって、対象となる人物の好きな人が近くにいると分かったとき、その人物の脳の中でどのような生理現象が起き、「心地よい」「緊張する」などの感情の道筋を整理する。

「おもてなし」は、とても人間的な行動ではあるが、残念なことに全ての人間がうまくできるわけではない。気遣いができる人と同じ数だけ横暴な人がいるのが人間の世界である。飛び抜けた気遣いはできなくても、安定感のある「おもてなし」では人工知能の方が優れているという時代が来る可能性がある。

感情地図の図
[図4] 感情地図
出典:AGIのホームページ(http://www.agi-web.co.jp/technology/trend.html
AGAは感情認識技術を開発しているベンチャー企業であり、工学から生理学、そして脳科学までの横断的研究を東京大学工学部および医学部と共同で進め、その成果を生かして感情地図を作成している。

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