LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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スマートシティのプレイヤーは何を考えているのか

パイクリサーチの4セグメントでどのような事例があり、どのようなプレイヤーが進めているのかをざっと見ておこう。
パイクリサーチのシニアアナリストでレポート”Smart Cities”を執筆したエリック・ウッズ氏は関連プレイヤーの状況を次のように説明している。「大手テクノロジーベンダーはそれぞれやや異なる目的を持って参画している」。これは、各ベンダーが自社製品の市場拡大を狙って、その目的に合致したプロジェクトを推進していることを言っている。
「ただ、これまでのプロジェクトで主導的役割を果たしてきたのはやはり電力会社だ」。スマートシティはスマートグリッド実証実験の延長に位置づけられるケースが少なくない。スマートグリッドは本来が電力会社のものなので、スマートシティについても推進役が電力会社になるという図式だ。
「自治体の関与も見逃せない。多くの場合、共同パートナーという位置づけだが、本来なら主導者としてスマートシティを引っ張っていくべきだ」。冒頭で述べたように、スマートシティは都市のサスティナビリティを解決するためのものであるため、自治体がもっと強力に関わってもよいということである。

スマートユーティリティ

「ユーティリティ」とは、電力、ガス、水などの公益サービス全般を指す。スマートグリッド、地域で提供されるエネルギーマネジメント、ITを活用した水のリサイクルなどがスマートユーティリティの典型だ。
具体的な事例としては、米国コロラド州ボールダー、米国アイオワ州ドゥビューク、ポルトガルのエボラ、スペインのマラガがある。
エボラでは、ポルトガルの電力会社EDPが街全体を一種の実験場としてスマートシティプロジェクトを実施している。電力使用の見える化に加えて再生可能エネルギーの売電を可能にしたインテリジェントホーム、電気自動車や電動バイクへの充電インフラの運用、街灯のLED化などを展開し、諸都市へ展開するためのノウハウの蓄積を図っている。

スマートビルディング

スマートビルディングとは、建物内部における電力消費、熱(温水等)消費、発電、蓄電、空調、照明、エレベーター・エスカレーター利用などの状況をリアルタイムで把握し、適正なコントロールを行っていくものである。
アムステルダムのスマートシティプロジェクトの一環として行われているスマートビルディングの試みでは、歴史的な建造物をリノベーションした文化施設「De Balie」においてエネルギー消費状況をリアルタイムでモニタリングし、結果を省エネルギーに生かしている。

スマートトランスポート

主には道路上の自動車による混雑の状況を動的に管理する手法を指す。エリック・ウッズ氏はシンガポールの事例が先端的だと言う。
その内容はと言うと、シンガポール交通当局が市内の道路状況をリルタイムで把握し、できるだけ多くの情報伝達チャネルを使って、道路交通の「意思決定者」である自動車ドライバーに伝達するのが眼目。伝達チャネルには、ラジオ、電光掲示板、テレビ、インターネットがある。運営当局側とドライバー側の双方において学習効果が蓄積されてくると、道路情報が実際に渋滞を緩和する効果を持ち始めるようだ。
ここにスマートシティの技術原理、すなわち、リアルタイムで状況のセンサリングを行い、リアルタイムで状況にフィードバックをかける動的メカニズムを見て取ることができる。

スマートガバメント

エリック・ウッズ氏は典型例としてブラジル・リオデジャネイロにおけるシティオペレーションセンターを挙げる。リオデジャネイロでは2010年4月の洪水で100名を超す死者を出した。このことから市では、台風や洪水の襲来に事前に備えることができ、万一襲来した時でも迅速な対策を講じることができるように、ITベンダー大手の協力を得て先端的な設備で固めたオペレーションセンターを設置した。
オペレーションセンターには、気象、地質、危機対応の専門家やエンジニアなどが集まり、大画面でリオ全体の状況を24時間監視しながら、迅速な措置を講じる。洪水や台風の影響のシミュレーション結果を表示することもできる。同市では2014年にワールドカップ、2016年にオリンピック開催が予定されており、その時期の市内の混雑もこのオペレーションセンターが処理することになる。

ショーケースで学習を重ねる

スマートシティは本格的に展開するとなると、数十億円~数千億円を必要とする大規模な事業案件になる。現時点では投資回収のモデルが確立しておらず、テクノロジーベンダーないし電力会社によるショーケース的な役割を持ったプロジェクトが少なくない。これらの企業はリアルな都市空間で様々なアプリケーションを展開し、その投資効果を測定し、現実的に効果のあったものを組み合わせ商用化可能な「テンプレート」を作ろうとしている。テンプレートが固まりさえすれば、様々な都市で採算ベースで取り組むことが可能になる。
自治体が主体となっているプロジェクトでも、多くの場合、自治体はスマートシティの「場」(用地)を提供するのみで、そこに盛り込むハコモノやテクノロジーは協賛するベンダーから無償供与を受ける形になっている。これも一種のショーケースであり、後に事例が続くためには、投資回収モデルの確立が必要になる。
例外は不動産デベロッパーが主体となっているプロジェクト。天津エコシティ、韓国ニューソンド(仁川市)、広州ナレッジシティでは、工業団地と住宅の造成・分譲によって利益を出すモデルが組み込まれている。これらのデベロッパーのスマートシティでは、費用のかかる低炭素化設備が組み込まれた分、賃貸料や分譲費が相場よりも高くなっている。
いずれにしてもスマートシティはまだ揺籃期にある。取り組みを始めた企業がピンポイントで対象都市を選び、学習を重ねながら次のフェーズを狙っている段階だ。

国名 スマートシティプロジェクト名 推進主体
日本 横浜スマートシティプロジェクト 横浜市
日本 「家庭・コミュニティ型」低炭素都市構築実証プロジェクト 豊田市
日本 「次世代エネルギー・社会システム」実証プロジェクト けいはんな学研都市
日本 北九州スマートコミュニティ創造事業 北九州市
日本 柏の葉キャンパスシティプロジェクト 三井不動産
米国 ドゥビューク・スマーターシティ ドゥビューク市、IBM
アブダビ マスダールシティ マスダール(国営再生可能エネルギー事業会社)
米国 スマートグリッドシティ(ボールダー) エクセルエナジー(電力会社)
オランダ アムステルダムスマートシティ アムステルダム市
韓国 ニューソンド(新松島) ゲールインターナショナル(不動産開発)
中国 天津エコシティ シンガポール・ケッペル(不動産開発)と天津市政府の合弁
米国 ピーカンストリート テキサス大学、オースチン市、オースティンエナジーなどのコンソーシアム
中国 広州ナレッジシティ シンガポール・シンブリッジ(不動産開発)と広州市政府の合弁
スペイン マラガ・スマートシティ エネル(電力会社)、IBM
ポルトガル エボラ・イノヴシティ EDP(電力会社)
[図表3] 主なスマートシティプロジェクト

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