LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
Topics
マーケット

都市イノベーションから生まれる巨大な市場

2020年までに1080億ドルと推定される
世界のスマートシティへのインフラ投資の背景とは?

  • 2011.12.18
  • 文/今泉大輔

これからのスマートシティの動向を理解する鍵は、環境と都市経営のサスティナビリティにある。サスティナブルな都市を実現していくうえで、技術インフラ投資が行われる「スマートユーティリティ」、「スマートビルディング」、「スマートトランスポート」、「スマートガバメント」にてどのようなプロジェクトが進行しているのか、また投資とそのリターンのモデルはどのように考えられているのか、世界の最新動向を探りながらレポートする。

魅力的な都市にはいくつもの優れた特質が備わっている。歩いていて気持ちのいい街並み。遠くからもはっきりと見えるシンボリックな建築。カフェや雑踏。整備された地下鉄。街路樹が美しいオフィス街。幸福そうな家が立ち並ぶ郊外。 
こうした都市はもちろん放っておいてできるものではない。都市計画に基づいた街区の開発。人々の移動をスムーズにする公共交通や道路の整備。上水や下水などのライフラインの運営。定期的なごみの収集。いずれも都市運営の専門家たちによる計画と、施策の運用と、日々の都市サービスによってはじめて形になる人為的な社会環境だ。
都市の運営がうまくいかないと、うんざりするような交通渋滞、ごみが散乱する街路、不衛生な水といった問題が発生する。事実、そうした問題に悩まされている都市は少なくない。
スマートシティは、そうした既存の都市の課題に解決方策をもたらす枠組みでもある。
しかし、スマートシティが取り組むのはそれにとどまらない。新しいタイプの課題がある。都市としてのサスティナビリティ(持続可能性)だ。
欧州を代表する環境都市スウェーデンのマルメでは、70年代半ばから90年代半ばの不況期に人口が流出し、都市経営がおぼつかなくなったことがある。操業を止めた造船所は廃墟のようになり、繁華街はさびれ、失業が増えて住民の活気が失われた。公共サービスの維持に欠かせない税収も激減した。そこで、90年代後半に選出された新市長は知識産業の誘致と環境調和をコンセプトに掲げて、今で言うスマートシティとしての道を歩み始めた。これが奏功してマルメは2000年代から再び成長軌道に乗り、人口も急増して、現在では魅力にあふれた環境都市として内外から注目を集めている。マルメのケースは都市としてのサスティナビリティがいかに重要であるかを示している。

見落とされていた都市経営のサスティナビリティ

日本でスマートシティについて議論する際には、すぐにエネルギーマネジメントシステムやEV充電インフラのようなテクノロジーソリューションに目が向くケースが多い。しかしそれだと木を見て森を見ずになってしまう。様々な国で取り組まれているスマートシティの全体的な動きをうまく理解するには、都市の2つのサスティナビリティに着目するとよいと思う。
一つ目は、「環境面のサスティナビリティ」だ。現在では先進諸国の住民の7割以上が都市で暮らしている。一国のCO2排出の大部分は都市によって行われており、都市が主体的にCO2削減に取り組むことには大きな意義がある。
二つ目は、「都市経営のサスティナビリティ」である。都市住民の健全な生活が営まれるためには、交通、水、ごみ、セキュリティ、教育といった公共サービスが一定水準で提供されなければならない。そのためには将来にわたって税収が安定していることが必要だ。従来のスマートシティの議論ではこの点が見落とされがちだった。
税収の安定には、成長性の高い企業の誘致による雇用の創出が不可欠だ。グローバル化が進んでいる現在、すべての都市は好むと好まざるとにかかわらず世界規模の都市間競争で雇用力の高い企業を奪い合う状況にある。都市経営が持続可能なものになるためには、優れた企業にアピールするメッセージ性を持ったプログラムに取り組み、継続的に企業誘致を図らなければならない。アブダビもアムステルダムも韓国仁川もそのことを真剣に考えてスマートシティ計画を練っている。
この2つのサスティナビリティを実現するために、スマートシティの様々な試みが全世界で行われている。その視点を持つと関連の動きがはっきり見えてくる。

Copyright©2011- Tokyo Electron Limited, All Rights Reserved.