LAST ISSUE 001[創刊号] エネルギーはここから変わる。”スマートシティ”
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スマートシティプロジェクトでは3レイヤーを同時に回す

アムステルダムや米国ボールダー、国内では藤沢スマートコミュニティでプロジェクトマネジメントを担当しているアクセンチュアの杉原雅人氏によると、スマートシティは大きく以下の4つの類型に分類できる。このうちレトロフィット型とニュービルド型は海外事例に存在するが、復興型と海外パイロットケースは日本固有のものだ。日本の方がスマートシティの「引き出し」が多いと言えるかもしれない。

タイプ 概要 主な事例
レトロフィット型 現在ある都市環境にスマートシティ的方策を組み入れるもの 横浜、アムステルダム
ニュービルド型 まっさらな状態からスマートシティとして新しい都市空間を開発する 藤沢、マスダールシティ
復興型 東日本大震災後の復興事業の一環としてスマートシティ的方策を盛り込む 会津
海外パイロットケース NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が日本企業と連携して海外で行っているスマートシティ実証実験 米国ニューメキシコ州、フランス・リヨン
[図表4] スマートシティの4類型

杉原氏によると、ニュービルド型では、スマートシティを構成する以下の3つのレイヤーを同時に回していくことが重要だと言う。

スマートシティを構成する3レイヤー

  • a.豊かな暮らしとサービスレイヤー
  • b.情報ネットワークレイヤー
  • c.エネルギーインフラレイヤー

日本の取り組みの多くは経産省の支援プログラムの下で行われるため、どうしてもテクノロジーベンダーが主体となって動く。そのため、情報ネットワークレイヤーとエネルギーインフラレイヤーについては、適合するプログラムがすぐに決まり、実装が進むが、サービスレイヤーについては空いたままという形になりかねない。
スマートシティに住む住民からすれば、優れた低炭素化設備や高度なセンサーネットワークが装備されていることは、生活とあまり関係ない。クオリティ・オブ・ライフという点では、そのスマートシティに住むことによって、どんな快適さが生まれるのか、コミュニティがどのように充実するのかということの方が大事だ。住民はサービスレイヤーの優れた設計があることによって、間接的に情報ネットワークレイヤーやエネルギーインフラレイヤーの恩恵を受けることができる。
このことから、日本のスマートシティプロジェクトでは、そこに実際に住む住民のホーリスティック(全体的なバランスがある)な生活の喜びに、もっと目を向ける必要があると言えるだろう。

都市当局が主導するスマートシティ

そのあたりをよく示しているのが、アムステルダムの事例だ。同市が国際都市としての地位低下にかなりの危機感を抱いていた事情がプロジェクト開始の背景にある。都市の魅力と活力が失われ、国際企業の撤退が続くことで、都市経営の持続可能性が危ういと考えた。
そこで、EUが加盟国に課している環境基準をどこよりも早く、一段と進んだ水準で達成することを基本目標に掲げ、都市としてイノベーションに取り組み、住民にもやさしい街づくりを行うことを考えた。その包括的なパッケージが同市のスマートシティプロジェクトという位置づけだ。冒頭で紹介したスウェーデンのマルメとほぼ同じ理由で始まっているのである。
住民が活気に満ち、企業活動が活発になるためには、都市当局がやる気を示し、住民や企業を巻き込んで、スマートシティを地に足の着いたものにしていく必要がある。マルメはそこにおいて成功し、アムステルダムもその方向を目指している。
スマートシティの投資回収モデルはまだ確立していないと記したが、ひとつの都市の中長期の財政というフレームで見るならば、企業が増え、雇用が増え、税収が伸びることによって、投資のリターンは得られる可能性がある。すなわち、スマートシティを進める主体は、テクノロジーベンダーや不動産デベロッパーではなく、都市当局であるべきなのかもしれない。
数多くの都市がそのことに気づき、自らの魅力を高めるべくスマートシティ化に着手するようになれば、おそらく今ある市場予測とは比べものにならない巨大な市場が立ち上がってくるはずだ。

Writer

今泉大輔

インフラ投資ジャーナリスト。インフラビジネスリサーチャー。
米最大手ネットワーク機器会社でリサーチャー勤務の後、独立。
ブログ: http://blogs.itmedia.co.jp/serial/

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